第40話 プップの鎧化


 プップの鎧化について色々試してみるクオンとマダラ。

 そしてわかったことは……


「僕でも使えますね」

「そうだな」


 浮かんでいる大岩を見て不思議そうなマダラ。

 何故か二人とも能力が使えるようになるのだ。


 するとイッキューが説明してくれた。


「マダラさんは守護霊なんでしょう? 」

「そうだが? 」

「憑りついたときもそうですが一つの体に二つの霊魂が入ってる状態なんです。守護霊と憑依霊の違いは二つの霊魂が仲良くしてるかしてないかの違いなんです」

「……つまり、おれはこいつの体に間借りしてる状態なのか? 」

「その通りです」


 マダラの言葉にうんうんうなずくイッキュー。


「一人の女性を二人の男が取り合って喧嘩するよりは仲良く3人でやった方がいいでしょう? そういうことです」

「良いこと言ってるように聞こえるのに間違っているようにも聞こえるのは何故でしょう? 」

「安心しろ。十分間違ってるから」

「??? 何故です? 一緒に楽しんだ方が良いでしょう? 」


 クオンとマダラの言葉に不思議そうな顔をするイッキュー。


 性に関してだけはおかしい御仁である。

 そしてあることにクオンは気付いた。


「あれ、タルタさんは? 」

「偵察に行ったよ。君も一旦鎧を解いて休みなさい」

「はい」


 言われてクオンはプップの鎧を解いて一服する。

 四半刻(三十分)して偵察に行っていたタルタが帰ってきた。


「厄介な事になりました」


 先行したタルタが戻ってくるなり開口一番にこう言った。


「どうしたんだい?」

「あの二人が先回りして領主のコドロ様を味方につけてしまいました」

「なんてことだ……」


 元々ネギ神官は人望があり、村人に慕われていた。

 昨日来たばかりの怪しい神官と比べられるとどうしようもない。


「彼らは私達がクオンを殺し、ネギ神官を殺そうとしたと。また、手配書が回っている犯罪者だと言っています」

「なんてことだ……」


 イッキューが大仰に頭を振る。

 マダラも渋い顔になっている。


「狡猾な連中だな……」

「彼らは討伐隊を作り、追い出すために武装を始めています。数名の貴種が屋敷に集まり全員で戦闘体制に入っています。奴らもその中にいます」

「そんな……」


 困り果てるクオン。

 向こうにしてみれば一致団結してこちらと戦うために守りを固めているんだろうが、


 こちらは手を出す方法は無い。


「いかんな。このままでは奴らの思い通りだ。何とかして村人を救わねば……」

ぺたり


 イッキューは真剣な表情になり、その場で地べたに座り座禅を組んだ。

 それを見てクオンが不思議そうな顔をする。


「それは一体……」


 するとタルタが代わりに説明してくれる。


「イッキューはある儀式をするといい案が浮かぶことが多いんです」

「……ではあれは……」

「そのための儀式です」

「……一種のマインドセットだな」


 マダラが神妙に呟く。


「……何ですかマインドセットって? 」

「自分が最高の力が発揮できるようにする儀式のことだ。俗に戦う前にやるゲン担ぎみたいなもんだが、それによって心が落ち着いて良い方法が浮かぶのだ」

「へぇ~。そんな方法があるんですか? 」

「ああ。やり方は人それぞれではあるが、イッキューは深く考えるタイプのようだな」


 タルタとマダラの説明を聞いて納得するクオン。


 イッキューは両手の人差し指に唾をつけて頭に擦りつける。


「どっかで見たことあるような儀式だな……」


 不思議そうなマダラ。


 そんなマダラを尻目にイッキューは目をつぶって、その手を胡坐の上に置いて……両手を上下に動かし始めた。


 シュッシュッ……


「「・・・・・・・・・・・」」


 非常に見覚えのある体勢に黙り込むクオンとマダラ。

 クオンが微妙な顔でぼやく。


「……私も良く見たことありますね」

「俺が知ってるマインドセットはこんな形じゃ無かったんだが? 」

「……何が言いたいんですか? 」


 あきれ果てる二人を尻目に真剣な顔で考えるイッキュー。

 やがて両手の動きが早くなって、いきなりぴたりと止まると同時にイッキューはびくっと震わせた。


(……あれってまさか……)

(いちいち突っ込むなよ。余計なこと聞きたいわけじゃないだろ? )


 クオンの疑問にマダラが見て見ぬふりをするように言った。

 すると、イッキューが目を閉じたまま声を上げた。


「わかったんですよ……良い方法がね……」

「今言ってるのあんただよな? 後ろに蝶ネクタイの少年居ないよな? 」

「自分こそ突っ込んでるじゃないですか! 何の話してるんですか! 」


 マダラのツッコミを止めるクオン。


「クオン君。本物のネギさんについてなんだが……」


 そう言ってイッキューが色々質問する。

 イッキューの言葉にはっとなるクオン。

 ある事実のことを忘れていたからだ。


「……そう言えばそうだ……なんで気付かなかったんだろう……」

「どうやら俺たちはまだ幻覚の中に居たみたいだな……」


 マダラも苦笑している。

 それを聞いてにやりと笑って目を開くイッキュー。

 クオンは嬉しそうに叫ぶ。


「よし! それを言えば他の人たちも……「いや、まだ弱い」……えっ? 」


 イッキューがすくっと立ち上がる。


「彼らは人を騙すことに長けている。私が話そう」

「どうしてですか? 」

「人は一旦信じたことには愚直に信じ続けるものだよ」


 悲しいことにこの辺は人間も魔人も変わらない。


 騙しのテクニックというのは難しいのだがやれる奴はとことん上手い。

 そして一度騙すとその後はそのまま騙され続けるのが人なのだ。

 クオンが難しい顔をするとイッキューがその頭を優しく叩く。


「まあ、僕に任せなさい」


 そう言ってイッキューは白い歯を見せてにかっと笑った。

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