第41話 頑固

 クオン達がヤスナガの屋敷に辿り着くと、ヤスナガが出迎えてくれた。

 と言っても好意的な対応では無い。


「そこまでだ。それ以上近寄るな」


 ヤスナガが完全に白蛇に変身してとぐろを巻いて屋敷の入り口を守っている。


 その周りには河童のカワダと天狗のヤマシタが変身して守っている。

 カワダは屋敷横の小川に入っていつでも水魔法が使えるように準備しており、ヤマシタもいつでも空から攻撃できるように木の上に陣取っている。


 二人とも相当緊張しており、こっちの様子をうかがっている。


「お前達がこの村を荒らしに来たのはわかっている。これ以上は無意味だ。大人しく去れ」


 そう言ってクオン達を威嚇するヤスナガ。

 戦って勝てないのはわかっているのでせめて引きさがるように言っているのであろう。


 クオンが思わず叫んでしまう。


「ヤスナガ様! 僕です! クオンです! 」

「既にクオンが殺されている事は知っている! それと女の方は幻影を操る魔人である事もな! クオンの幻を出してもわしは騙されんぞ」


 しゃぁぁぁ!と威嚇の声をあげるヤスナガ。

 クオンが悲しい顔でヤスナガの蛇顔を見ている。


「違います! 僕は本物です! ネギ神官が偽物なんです! 」

「そんな嘘に騙されるか! 」

「本当です! じゃあ、ネギ神官をここに連れて来て下さい! 彼が嘘ついている事を証明します! 」

「そんな必要は無い! 」


 しゃぁぁぁ!と再び威嚇の声をあげるヤスナガ。

 クオンが絶望的な顔になっている。


(こんなに難しいとは! )


 人間は一度信じたことを疑わない。


 納得しないことは確認するだろうが、一度信じたことが正しいと思い込んでしまう。

 特に先入観は難しく、不審者には問題のない人物でも裏が無いか探ってしまう一方で、金を盗みまくっている経理を疑わないのと一緒だ。


 それに気づいたクオンは困り果てた。


(こんなの無理だ……)


 最初から偽物と疑ってかかる以上、何をやっても偽物と思われる。


(あいつが居ればなぁ……)


 マダラが悔しそうに呟く。

 クオンは少しだけ気になったが今はそれどころではない。


「さてと。やはり僕の出番が必要になったねぇ……」


 そう言ってイッキュー神官が白い歯をきらめかせて前に出た。

 それを見て威嚇の声を上げるヤスナガ。


「失せよ下郎! もはや貴様の声に耳を傾ける者などいない! 」


 そう言って声を荒げるヤスナガ。

 言葉の割には腰が引けてるのは無理からぬことだ。


 そんなヤスナガににこにこと笑いながら声を掛けるイッキュー。


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。僕たちはその手配書のならず者とは無関係ですから」

「ほざくな! ネギはちゃんと貴様らがクオンを殺した所を見たと言っておったわ! 」


 かたくなに耳を貸さないヤスナガ。

 だが、そんなヤスナガににこやかにイッキューは声を掛ける。


「じゃあ、?」

「なに? 」


 ヤスナガの動きが止まる。



 そう言ってイッキューはクオンを指さす。


「なんでそんな勘違いをしたかはわかりませんが、ネギさんはどうやってクオン君を殺したと言っておりましたか? 」

「うむむぅ…………」


 急に困った顔になるヤスナガ。

 それを聞いて感心するマダラ。


(上手いなぁ…………)

(どういうことですか? )

(言われてみれば…………)


 ヤスナガは緊急の案件として聞いているから迅速な対応をしている。


 一方で細かい状況確認をしていない。


 そこをイッキューは突いたのだ。


「一度、ネギさんをここに呼んでみては? 。ただ、急に慌てふためいて帰られたので何事かと不思議に思っていたぐらいです。きっと、何か見間違えてしまったのでは? 」

「ふーむ…………」


 ヤスナガが困り顔になっている。

 ちょっと疑問に思い始めたからだろう。

 さらにイッキューが言葉を畳みかける。


「ではこうしましょう。私はここからさらに下がります。ここから一歩も前に出ませんので呼んできてもらえませんか? 」


 丁寧に穏やかな声で尋ねるイッキュー。

 それを聞いて考え込み始めるヤスナガ。


 そこでイッキューはにこやかに提案する。


「では、先にこのクオン君が本物かどうか確認してみては? 」


 そう言ってクオンを指さすイッキュー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る