第42話 確認?
「では、先にこのクオン君が本物かどうか確認してみては? 」
そう言ってクオンを指さすイッキュー。
呆然としていたクオンがはっとなり前に出るが、それを手で制するイッキュー。
「まだ前に出てはいけないよ。僕はこれ以上前に出ないと約束したんだから。君も前に出てはいけない」
「ですが! 」
「落ち着きなさい。相手の信頼を得るためにはまずは行動が命だよ。自分から『約束したのはイッキューだけだから』と言って破るのは紳士のやることじゃないよ? 」
そう言ってバチンとウィンクをするイッキュー。
それを聞いて渋々下がるクオン。
「ふむ…………」
その様子を見ていたヤスナガは何かを感じ取ったようだ。
実は信用において重要なのは『約束を守る』というたったこれだけのことだ。
だが、その「当り前のこと」が一番難しい。
いざ、履行の段階になると平然と破るのが人間である。
言い訳が山のように出てくるからだ。
「そこまでは言っていいない」「○○だから関係ない」「約束したのは◇◇だから関係ない」「約束したけどお前も▽▽だからしない」
大人になるほどこの辺の問題が露骨に出てくるので、行動の伴わない信用は無いのだ。
ヤスナガは老練の領主ゆえに信用できる相手の見極めは長けていた。
「セツナを呼んで来い」
ヤスナガは後ろで槍を構えている村人に言った。
ほどなくしてセツナが現れた。
目の前にいるクオンを見てはっとする。
「クオン君? 」
屋敷からセツナが出てきたのは良いのだが……
(めっちゃ泣いてる……)
(あんまり泣かしすぎるなよ……)
涙顔のセツナがクオンの姿を見て嬉しそうに笑う。
今にも駆け寄ろうとする勢いだが、意外なことに自分で止まっている。
(意外だな。なりふり構わず飛びつきそうなもんだが……)
(ああ見えて人見知りだから僕以外には慎重なんです)
(……そういや、昨日も直接イッキューに話すことが無かったな)
昨日の夜もイッキュー達から一番遠い場所に居たセツナだ。
今でもイッキュー達には警戒している。
「セツナ様いいですか? 」
そう言って女中のメイカがなにやらぼそぼそと耳打ちしている。
「わかりました」
そう言ってセツナがちょこちょこと、怖がりながらもクオンに近寄って質問した。
「本物のクオン君ですか? 」
「そうだよ」
首を傾げながらクオンを見るセツナ。
クオンをじっくりと眺めてからこう言った。
「本物のクオン君なら私にチューして下さい。それでわかります」
「どさくさにまぎれて何言ってんだてめぇ」
思わず口が荒くなるクオン。
だが、セツナは平然と続ける。
「本物のクオン君なら婚約者の私に迷わずチューが出来るはずです」
「いつ婚約した? 」
「あと本物のクオン君なら今日、私と子作りする事を覚えているはずです」
「ねえよ。そんな予定」
「メイカさん失敗です。クオン君は作戦に乗ってくれません」
クオンの言葉に泣きそうな顔になるセツナ。
(つまり、よく見ただけで本物とわかったんだな。愛の力ってやつか……)
(単なる動物的直観です)
マダラの言葉に仏頂面で答えるクオン。
「むぅ……本物のようだな」
ようやく納得したヤスナガ。
そして周りに居たヤマシタとカワダの緊張も解かれる。
流石に今のやり取りで信じたのだ。
「どうやら、ネギの勘違いの様でしたな……人騒がせな……」
ほっとするヤスナガが変身を解こうとしたその時だった!
「みんなだまされるな!」
突然の大声に全員が振り向く。
ニセのネギ夫妻が屋敷から出て来たのだ。
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