第43話 メッキ剥がれ
「みんなだまされるな!」
突然の大声に全員が振り向く。
ニセのネギ夫妻が屋敷から出て来たのだ。
「わしは見たぞ! クオンが殺されるところを! 幻影でなければゾンビにしたのだ! それならクオンの記憶があっても不思議ではない! 」
そう言って周りを見渡す二人。
だが、ヤスナガ達も少し困った顔になっていた。
ネギの様子に違和感を感じ始めたのだ。
こうなると疑念の対象は完全にネギの方へと向く。
するとイッキューが声を掛ける。
(今だ! さっきのように鎧を身に着けてくれ! )
(えっ?……は、はい……)
言われるままにプップに声を掛けるクオン。
「プップ! 」
「ぷぷ~♪ 」
「鎧になれ! 」
「ぷっぷ~♪ 」
ピカっと光ってクオンの体に白い鎧がまとわりつく。
だが、クオンの言葉ですぐに目を閉じた人たちと、背中を向けていたネギ夫妻の目を焼くことは無かった。
「何?」
ネギ夫妻がきょとんとした顔になる。
彼らは見たことないのだから当然だ。
イセリアにおいて鎧に変身する魔物なぞ聞いたことも無いだろう。
それを見てにやりと笑いイッキューが尋ねる。
「おや? ネギさんはこの鎧の事知らなかったんですか? 一年以上前からクオン君が使っていたみたいですが? 」
「……そんなわけなかろう! 勿論、知っておるぞ! 」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
すすっとヤスナガ達がネギ夫妻から距離を取り始める。
当たり前だがクオンが使えるようになったのは一週間前だ。
同じ村人でも知らない者の方が多いし、見たことない者も多い。
特にカワダはこれを使ったところを見た事が無いのですぐにぴんと来たんだろう。
もはや完全に疑惑が偽のネギ夫妻の方に移っている。
それを確認した上でイッキューがスーツの内ポケットへと手を入れる。
その状態でにやりと笑って尋ねた。
「それからこれが一番気になったのですが……いつ結婚したんですか?ねぎさんは独身ですよね?」
一瞬、あたりの空気が止まる。
ネギ夫妻は苦々しい顔で固まってしまった。
イッキューはそれを確認してにやりと笑った。
シュッ!
イッキューは内ポケットから出した何かのカードを飛ばした。
そのカードは悔しそうに顔を歪ませるネギ夫妻の目の前へと飛んでいくと、カードから半透明の女性が出てきて叫んだ。
「凍れ!」
バキバキバキ!
叫び声とともに偽夫妻があっという間に凍りつく。
それと同時に全員がが夫妻を包囲するように距離をとる。
「みなさん逃げてください! あいつらこそが手配書のならず者王種です! 危険ですから下がって!」
イッキューの言葉に慌てて遠くに逃げていく村人たち。
王種同士の戦いに雑種はかえって邪魔である。
特に高位の王種同士になると貴種ですら邪魔になる。
そんな中、一人だけ慌ててクオンに近寄るセツナ。
「クオン君! 」
「お前も逃げてろ! 王種同士の戦いに入ったら危険だ! 」
「でもクオン君も……」
「いいから逃げろって。この鎧があると王種レベルの力が使えるんだ! 何とか後押しするだけだからお前は逃げろって」
「でも……」
「帰ったらご褒美に良いことしてやるよ」
「体磨いて待ってます! 」
そう言って速攻で消え去るセツナ。
それを聞いてにやにや笑うマダラ。
(とうとう覚悟決めたか? )
(勉強を見てあげるのは良いことでしょう? )
(絶対違うことを期待しているように見えたが? )
(勝手に勘違いしてるだけで知ったことではありません)
マダラの言葉にしれっと言ってのけるクオン。
「クオン君! 」
イッキューが駆け寄り、さきほどのカードを取る。
「このカードは一体? 」
「支配魔人(ハッグ)のマリスだよ。支配魔法が使える」
そう言ってカードを見せるイッキュー。
カードには室内の絵が書いてあり、そこには先ほどのあでやかな透明な美女がひらひら手を振っていた。
「こうやってカードを媒介にして死霊を連れて行くことも出来るんだよ。言わばゾンビの霊体バージョンだよ」
「便利ですねぇ 」
感心するクオン。
すると氷漬けになっていた偽夫妻の方に動きがあった。
バキャン!
大きな音を立てて氷が壊れる。というよりは解けて無くなる。
「してやられたな」
にやりと笑う黒い肌の痩せた男と白い肌の大女が現れる。
「あたしの幻覚が口先三寸で破られるとはねぇ」
ズズズズ
何かがずれるような音が聞こえたのでクオンがちらりとそちらを見ると、タルタが巨大化していた。
大きさは三丈半(約10m)ぐらいだろうか? 腕が触手状の巨人が現れる。
腕以外は元のタルタと全く同じ姿でこれだけの美女が巨大化するのはまさに圧巻だった。
「そっちは任せたぜ。こっちの方が相性が悪かろう」
「わかったわよ」
そう言ってウートガルザの方も巨大化した。
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