第5話 馬鹿の子セツナ
そして昼過ぎ
クオンは魔獣が見つからなかったので一度ヤスナガの屋敷に集合して昼飯を食べ、再び捜索を始めた。
「みつからねぇな」
「見つかっても怖いけどね」
のんびりとイッペイの愚痴に答えるクオン。
山の中の捜索なので、大鎌で草を刈りながらの捜索になる。
大鎌で草を刈り、槍でつつく地道な作業である。
時折、大きめの隠れていそうな草むらには石を投げて様子を見る。
「ちょっと一息つこうか」
「そうだな」
そう言って手近な場所に座り一息付ける。
「ふぅー」
「まだ少ししか進んでないな」
なにしろ雑草が生い茂る山の原生林である。
道を作りながら進んでいるため、効率は良くない。
この山は山菜があまり取れないので誰も入ろうとしないから雑草が増える一方なのだ。
「魔物だけど、何かわかりそうな物は無いか? 」
「全然わからん。大陸の生き物かもしれん」
「大陸かぁ……どこの? 」
そう言って空を見上げるクオン。
東西南北全ての大陸が空に描かれている。
球の内側のようなこの世界ではこうやって世界地図無しでも大体の方角がわかるのだ。
今日は綺麗に晴れ渡っているので特によくわかる。
「この目で見ないことには特性がつかめん。畑を荒らした理由がな……」
「奇妙だよね」
来る途中に三人でタナカの畑を見たが普通の畑で大根が折れていた事を除けば取り立てて被害はなかった。
食性がいまいちわかりにくく、危険度がわかりにくい。
がさがさ
いきなり後ろの草むらが動く。
二人で話をするのをやめ、静かに武器を持って距離を取る。
(あれか? )
(わからん。だが、隠れるのは出来そうだな)
草むらはやや大きめで屈めば一丈の魔物でも隠れるのは可能だろう。
がさがさがさがさ
徐々に草むらが激しく動き始める。
(まずいな。セツナは? )
(さっきクオンが邪魔だからそこで遊んでろって言ったろ? )
セツナはあれで白蛇の貴種なので、怪力と水を操る力を持つ。
いざ、戦いとなれば二人よりは遙かに強い。
もっとも、お馬鹿なので今一つ役に立たない。
がさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさがさ
(くるぞ! )
(ああ! )
二人は槍を持って身構える!
草むらから何かが飛び出てきた!
「ばぁ! 」
飛び出たのはセツナだった。
悪戯っぽく笑ってニコニコしている。
それを見たクオンは豪快に槍に振りかぶった。
ゴン!
セツナの頭にクオンの槍の石突が直撃する。
「うりゅぅぅぅぅぅ!!!! 」
苦しそうにのたうち回るセツナ。
「クオン……今、セツナってわかってから叩いたよな? 」
「当たり前だ」
キレ気味に答えるクオン。
「ううう、痛いのです。ちょっといたずらしただけなのに酷いんです。乙女をキズものにしたんですから責任とって欲しいのです」
「断る」
額を押さえながら涙目で懇願するセツナと切れ気味のクオン。
「大体、こんな時に紛らわしいんだよ! いたずらにしても笑えねぇよ! 」
「ううう、場を和ませようとしたのに……」
「むしろ殺伐としたわ! 」
ちなみに石突で思いっきり叩けば普通は頭がかち割れてもおかしくないだが、セツナの場合は赤くなっただけで終わっている。
白蛇は龍の貴種だけに身体も頑丈なのだ。
ちなみに大蛇に変身する事も可能だ。
「あほな事やってないで下で大人しくしてろよ。何かあったら呼ぶから」
「セツナは一人ぼっちで寂しいのです。みんなと一緒にお山で遊びたいのです。まだまだ自由を愛する風の子なのです」
「お・ま・え・は~~~~!!! 人の話を聞いてるのか~~~~~!!!! 」
「あうぅぅぅ!!! こめかみぐりぐりは止めて欲しいのです~~~!!!! 」
話を聞かない馬鹿に一通りお仕置きを済ませるクオン。
「仕方ない。ちゃんと大人しくするんだぞ」
「合点承知の助! 」
「絶対ふざけてるだろ! 」
びし!っと敬礼するセツナに呆れるクオン。
「とりあえずこれで草を刈ってくれ」
そう言ってセツナに大鎌を持たせるクオン。
嬉しそうに大鎌を振り回すセツナ。
「合点だ! 」
「とりあえずあのへんな」
「うぃ! 」
そう言って大鎌を振りかぶるセツナ。
それを見てクオンは慌てて止めようとするが……
「ちょっと待て! 」
バキン!
思いっきり振った大鎌は木に当たってあえなく折れた。
セツナはきょとんとしている。
「……あれ?」
「……お前に刃物持たせたのが間違いだった」
大鎌は完全に折れてしまった。
折れた大鎌を持って笑顔をふりまくセツナ。
「てへ♪ 」
ガシ!
笑ってごまかそうとしたセツナの脳天に槍の石突を下ろすクオン。
「うりゅぅぅぅぅ!!!! 」
再びのたうちまわるセツナ。
「全く。俺以外だったら里に戻る羽目になってたぞ? 」
そう言って鎌の折れた刃を元の刃に押し当てて手を当てるクオン。
クオンは錬金の能力を持つ一族で鍛冶全般に優れている。
全ての物質は小さな輪によってできており、その輪を動かすのが鍛冶魔法である。
もっともクオンは雑種と呼ばれる色んな種族が均等に交わっているので、ちょっとした鍛冶錬金を行うのがやっとであり、より魔神に近い王種の錬金は岩一つを黄金に変えることさえ出来る。
クオンは大鎌の刃を元通りに戻す。
「よし! 」
「いつ見ても便利だよな。それ」
「まあね。イッペイも頑張れば出来るんじゃないか? 」
「全然出来ねぇよ。雑種の中でもお前の血筋ぐらいじゃないか? 」
当たり前だが、雑種と言えど全ての血が均等に混ざっているわけではない。
力こそ弱いが特殊な魔法が使える一族も居るのだ。
そういった者たちは鍛冶や医者などの独自の職業について居る。
クオンの一族はそういった一族なのだ。
「お前だって魔獣術は使えないだろう? 」
「それもそうか」
ちなみに魔獣術とは魔獣を操る能力だ。
魔獣の配合ができるのはイッペイの魔獣商人の家系だけだ。
「仕方ない。こっち持ってろよ。持ってるだけだからな」
「合点だ! 」
そう言って、セツナに槍を二つ持たせるクオン。
ざっざっ
男二人で鎌を振るって草を刈っていく。
クオンがちらりとセツナの方を見ると黙って立っている。
ざっざっ
とりあえず、何も考えず草を刈るクオン。
隣のイッペイも一心不乱に刈っている。
ざっざっ
もう一度クオンがちらりと横を見るとセツナはあくびをしている。
(退屈し始めて来たな)
ざっざっ
何かやらかすだろうと思っていたが無視して草を刈るクオン。
「よっとと……よっ」
刹那は槍の刃を上にして石突を手のひらに乗せ、バランスを取っている。
(もう遊び始めたか……)
呆れながらも注意するクオン。
すると案の定バランスを崩して槍を倒し始める。
「おわっと。あわわわわわ!!!」
「おっと」
槍がクオンのほうに倒れて来たのでさっと避けるクオン。
だが、その先にはイッペイがいた。
ブス♪
「痛ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
避け損ねたイッペイの尻に刺さる。
クオンは大鎌を振りかぶる。
「セツナ」
「何? 」
ゴン!
今度は大鎌の石突でセツナの頭を思い切り叩いた。
「うりゅぅぅぅぅ!! 」
「邪魔ばっかしてんじゃねぇ! 」
怒るクオンと泣くセツナ。
慌てて間に入るイッペイ。
「まあまあ……」
こういったときになだめ役に入るのがイッペイだ。
しばらくわちゃわちゃする三人。
「大人しくしてるんだぞ? 」
「……はい……」
半泣きのセツナを置いて再び草を刈ろうとするクオン。
その時だった。
ウォォォォォ
遠くから恐ろし気な叫び声が聞こえてきた!
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