第6話 怨霊
遠くから恐ろし気な叫び声が聞こえてくる。
「今の聞いたか? 」
「ああ」
クオンとイッペイの間に緊張が走る。
「あっちだな」
先ほど刈ったばかりの方向を指さすイッペイ。
段々と恐ろし気な叫び声が近寄ってくる!
「セツナ! 」
「うぃ? 」
慌ててセツナに槍を持たせて迎撃態勢を取る二人。
女の子を前に下がるのはと思うかもしれないがこの世界では血筋が絶対である。
より魔神に近い者が戦闘的な魔法が使えるので、この中ではセツナが一番強いのだ。
そうこうしている間に叫び声がどんどんと近づいてくる!
「セツナ。あそこから出てきたら槍で突き刺せよ」
「うぃ! 」
槍を構えるセツナ。
うぉぉぉぉぉぉぉ!
遂に叫び声が間近に聞こえてきた!
「いけ! 」
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁ!! 」
飛び出してきた『なにか』に槍を構えたセツナが突っ込んでいく!
スカ!
飛び出してきたものをすり抜けてしまった!
「なに! 」
驚くクオン!
セツナはその先へと突っ込んでいき……
「うりゅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
突っ込んだ先にある崖から転げ落ちていった。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」
転げ落ちたセツナと目の前のソレのどっちに対処しようか悩む二人だがクオンはすぐに答えを出した。
「セツナなら崖から落ちたぐらいじゃ死なんから大丈夫だろう」
「落とした本人が言うセリフじゃねぇな」
クオンの言葉にイッペイは突っ込むが白蛇は頑丈なので守りに強い。
崖からこれ落ちたぐらいでは死なない。
それに目の前のソレがあまりに異様だったのでそっちの対処の方も重要だった。
一言で言えば端正な顔をした斑色の服を着た男だろう。
緑を基本とした茶色や黒が混ざった色で変な服である。
このヤオヨロズ島に限らず服は多彩なパターンがあるのだが、これは珍しい色だ。
どう見ても小汚く色を混ぜたようにしか見えず、子供が適当に配色したかのような服だ。
身の丈は6尺(180cm)を超える大男で悔しそうに涙を流している。
そして何よりもその体が透き通っている。
イッペイが呻く。
「どう見ても亡霊だな……」
「そうだね……」
この地下世界イセリアでは亡霊は当たり前に居る。
そのために亡霊を昇天させる鎮魂神官という一族もいるぐらいだ。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」
その男の亡霊は悔しそうに叫んでいた。
その様子を見てドン引きするクオン達。
「なんか、すっげぇ未練がありそうだな……」
「よっぽど嫌な思いして死んだみたいだ……」
どう考えてもこのまま怨霊へとクラスチェンジするだろう。
それを思わせられるレベルの慟哭であった。
「どうする? 」
「とりあえず神官のネギさんにお願いするためにも、この亡霊を誘導しよう」
この村の神官のネギは雑種だが鎮魂神官である。
亡霊に対してはそれなりのものだ。
「そうだな。それでセツナの方は? 」
「ほっとこう。落ちたのも川だし、頑丈な白蛇族の中でもさらに頑丈なセツナなら問題ない」
白蛇族は巨大な蛇に変身することが出来る上に蛇は川を泳げる。
よほどのことが無い限り死ぬことは無い。
だが、それを聞いたイッペイは苦笑する。
「もうちょっと優しくしてやったらどうだ? 」
「あのバカに優しさは不要だ。どんな殴っても傷一つつかないんだぞ?」
ちょっとだけむすっとして答えるクオン。
その時だった。
「おおおおおおおおおおおおお!!!! 」
「おわっ! 」
亡霊が急にクオンの方に近寄ってきた!
ヒュオン
奇妙な音を立てて亡霊の姿が消える。
「一体なにが……」
クオンが不思議そうに辺りを見渡すとイッペイ以外誰も居ない。
だが、イッペイは困った顔でクオンを指さす。
「クオン。後ろ」
「うん? 」
言われて後ろを振り返るとあのまだら模様の服を着た男のドアップが見えた。
整った顔立ちではあるが怒りに歪んでかなり怖い。
「おわっ! 」
慌てて逃げようとするが男のドアップは変わらない。
それどころかどんなに逃げても付いてくる。
それに気づいたクオンは困った顔になる。
「憑かれたな……」
完全に憑依されたのだ。
とはいえ、亡霊が当たり前に存在するこの世界である。
憑りつかれたぐらいでビビっていては魔人はやっていけない。
「クオン! 無事か!」
叫び声が聞こえたのかヤマシタが空を飛んでこっちに来た。
ヤマシタは天狗族なので空が飛べるのだ。
クオンがヤマシタに事情を話すと彼の顔が曇った。
「一度、ネギに見てもらうしかないだろ? 今は大丈夫だが、憑りつかれると後々厄介だ」
「そうですね……捜索は一時中断しよう。俺はネギさんの所に行く。イッペイはいらんと思うけどセツナを助けに行ってくれ」
「りょーかい」
酷いことを言いながらも見に行けと言うクオンの優しさにイッペイは苦笑した。
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