第7話 亡霊の怨み言


 クオンはヤスナガに一言断りを入れてからネギの元へ向かった。

 歩いている道中、突然憑りついていた亡霊が唸り声以外を上げ始めた。


「う……なんだ……ここは一体……」


 不思議そうに後ろの亡霊が呟くのが聞こえたクオンは後ろを振り向く。


「うん? 落ち着き始めたのか? 」


 クオンが不思議そうに呟く。


 浮遊していた亡霊が何も無いのに落ち着くことはまずない。

 死んだときの記憶が強烈過ぎてその時の記憶を引きずるのだ。

 憑りついた亡霊にもその傾向は顕著に出る。


「……なんだここは?……」


 不思議そうに亡霊がキョロキョロするのを感じてクオンが声を掛ける。


「気が付いたか? お前はもう死んるんだよ?」


 クオンの声にはっとなる亡霊。

 初めてクオンに気付いたのか、不思議そうにクオンを見ている。


「……誰だお前?」

「人に憑りついておきながらその言い草は無いでしょう?」


 苦笑するクオン。

 亡霊は尚もキョロキョロする。

 やがて何のことかわかってきたようだ。


「……俺は死んでお前に憑りついているのか? 」

「そうですね」

「その割には落ち着いてるな? 」

「対処法がなんぼでもありますので。今からあなたを昇天させるために神官の元へ行くんです」

「昇天させるだと!? それはダメだ!」


 突然怒鳴り始める亡霊。


「俺にはやることがある! そのためにも今は昇天できない!」

「何をやるんですか?」

「復讐だ!」

「亡霊はみんなそう言うんです」


 あっさり答えるクオン。

 当り前だが普通に大往生すればそのまま昇天する。

 未練があるから亡霊になるのだ。


 だが、亡霊は尚も叫び続ける!


「俺は必ず復讐せねばならんのだ! 」

「誰に? 」

「それは……」


 クオンの言葉に急にトーンダウンする亡霊。

 それを聞いて訝し気に眉を顰めるクオン。


「誰に何のために復讐するんですか?」

「……何のために復讐するんだろう?」


 ズルッ


 不思議そうな亡霊の言葉に思わずこけそうになるクオン。


「……覚えていないんですか? 」

「……そうだ。何故だ? こんなに怒りを覚えているのに肝心の相手がわからない……」

「みたいですね」


 クオン自身もこの亡霊と意識を少しだけ共有しているので彼の気持ちが凄くわかるのだ。

 彼の心には焼けた鉄が身体の中で暴れるかのような怒りに煮えたぎっている。

 これほどの怒りはクオンにすら覚えがない。


 よほどの恨みなのにその相手のことがわからないのだ。


「……妙だ……記憶がやけに朧気で今一つわからない……」

「ひょっとして記憶喪失というやつですか?」

「そうだ」


 クオンがネギから聞いた不思議な病の名前を言ってみるとあっさりと亡霊は答えた。

 その姿に違和感を覚えるクオン。


(あの病気は極めて珍しく、学のない人には知らないはずだが? )


 見たところ無駄のない細マッチョな体つきだったので意外だったのだ。


(それに亡霊が記憶喪失とは……)


 なんだかとっても不思議である。


「その復讐したい相手がわからないというやつですか?」

「どういう意味だ?」

「殺されたときに相手の顔を見ていないとか……」


 亡霊は未練を残すが殺した相手に復讐したいと願っても、その相手を知らないことが稀にある。

 だが、亡霊は不思議そうに首を傾げる。


「……何年も追いかけた宿敵だったはずだ……目に穴が開くほど見ていた顔なのに何故か思い出せない……」

「けったいなことですね……」


 普通、長年の恨みがある相手はさすがに幽霊でも覚えていることが多い。


(なんか色々訳アリみたいだねぇ……)


 めんどくさくなってきたとクオンが顔を顰めていると鎮魂神官のネギさんの家が見えてきた。



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