第8話 守護霊?
クオンが亡霊と押し問答をしていると鎮魂神官のネギの家が見えてきた。
家の入口には神官衣を着た禿頭の450歳ほどの初老のおっさんが居た。
「ヤマシタが教えてくれたから準備して待ってたよ」
「さすがネギさん」
ほっとするクオンだが、様子を見ていたネギは顔を顰める。
「むむむむむむ? 」
「……どうしたんですか? 」
不思議そうなクオン。
「このおっさんが昇天させてくれるのか? 」
亡霊も困り顔のネギを訝し気な顔をする。
するとネギが禿げあがった頭を光らせて顰め面で答える。
「これは……憑りついていないね……」
「……えっ? 」
不思議そうなクオン。
「どちらかと言えば守護霊みたいになっている」
「……どういうことですか? 」
不思議そうなクオンにネギは考え込むようにして答えた。
「どうもこの亡霊はただの亡霊じゃないね。クオンに縁のある人だよ」
「俺に縁ですか? 」
「そうだ」
うんうんうなずくネギ神官。
「優れた人物が死ぬと縁のある人を英霊として助けるというのは授業で教えただろう?」
「一応は……」
クオンはこのネギ神官の元で様々な勉強をしたのだ。
神官は寺子屋的な形で子供たちに勉強を教える機関でもある。
クオンは幼少の頃より、彼から様々なことを学んでいた。
「彼はいわば子供たちを守るタルーア神のようなものだよ」
「タルーアは天馬族の守り神でしょう? 」
「お金を稼ぐためにも子供の守り神にしておいた方が良いんだよ」
そう言って笑うネギ神官。
タルーア神は嵐猿族の神だが、元は天馬族の魔神でイセル様のエギルの実を食べたので猿の姿にされたのだ。
後に新しく生まれた嵐猿族が祀ったのことで信仰が歪み、何故か子供を守る神になってしまったのだ。
そのため、子供が42歳(人間年齢にして4歳)になるとタルーアの置物を上げるのが風習になっていてその猿の置物を売るのが神官である。
クオンは苦笑した。
「嘘ばっか吐いてるとネール様に地獄行きにされますよ?」
「残念! 地獄で裁きをするのはラムリス様でした!」
「そうでしたね」
地獄の裁判は律法の魔神ネールが行うと言われているがそれは俗説で本来は地獄の裁判官であるラムリスが行う。
ちょっとだけネギ神官がむっとする。
「クオン?ひょっとして本気で間違ったのかい? 」
「先生を試しただけですよ」
「こいつめ! 」
苦笑するネギ神官と笑うクオン。
だが、亡霊がいきなり声を上げた。
「こいつ素で間違えてましたよ。試したって言ってごまかしただけです」
「なんじゃと! 」
「何故ばらすぅぅぅぅぅぅ!!! 」
怒ったネギにこんこんと説教されるクオン。
禿げあがった頭から湯気を出しながらむすっとして怒るのを止めるネギ神官。
「最近、そのあたりの間違いが問題になっておるのじゃ! 二度と間違えるでないぞ! 」
「はーい……」
しょぼくれるクオン。
「特に守護霊には嘘は通用せん。気をつけよ」
「わかりました……」
困り果てるクオン。
守護霊には心の考えが丸わかりになるのだ。
悪いことするとすぐにバレるようになる。
神官は厳しい顔で宣言する。
「じゃからその霊は責任もってお前が昇天させよ」
「えーっ! 」
困り顔になるクオン。
すると不思議なことに亡霊の方も困り顔になる。
「なんというか……すまん」
「すまんじゃないですよ~……」
昇天するまでクオンが面倒見るしかないのだ。
色々とややこしいものを抱えている亡霊をである。
「じゃが安心せい。その亡霊はお前の守護霊である以上プラスになるものじゃ。きっとお前を助けてくれるだろう」
「たった今裏切ったばかりですが? 」
ジト目のクオンの明後日の方を見て誤魔化す亡霊。
それを見て嬉しそうに笑うネギ神官。
「大丈夫じゃ。その霊は役目を終えれば消える。なすべきを成せばよいだけじゃ」
「わかりました……」
仕方ないので面倒を見ることにするクオン。
だが、亡霊は困ったように尋ねた。
「それは良いのだが……俺は何故か記憶喪失なんだ……どうすれば治るかわからないか?」
「何? 記憶喪失じゃと?」
不思議そうな顔になるネギ。
「人は死んで霊になると生前の記憶は全て詳細に覚えておる。それが無くなるなどありえん……」
そう言って不思議そうにみていたネギだが、亡霊の体に巻き付けられていた鎖を指さす。
「その鎖じゃな……」
「……これが?」
不思議そうに服の上から縛られている鎖をじゃらりと動かす亡霊。
胸にある錠前を手に取る。
「何で出来ておるかわからんが、それはお前さんを縛っておる。それが外れんとわからんじゃろう」
「むぅ……外せないのか?」
「無理じゃな」
困り顔のネギと、もっと困り顔の亡霊。
「魔都に居る高位の神祇官……あるいは法皇一族のネフィアでもない限り解けんかもしれん……」
「……そんなにですか?」
それを聞いて驚いて唸るクオン。
神官の最高位に当たるネフィアの一族はあらゆる律法の魔法が使える最強の魔人一族である。
そのレベルで無いと解けない魔法など彼は知らない。
「じゃから一段落したらその鎖を解き放つ方法を探してみるのも良いだろう。その間は一緒に暮らしなさい」
「はーい……」
無理矢理話を治めるネギに口を尖らせて答えるクオン。
すまなそうに亡霊がクオンに謝る。
「すまん……夜に一人でこする時は横見るようにするから」
「余計なお世話です! 」
割と本気でクオンは怒った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます