第9話 名前はマダラ


「けったいなことになったのぅ」


 ヤスナガが困った顔でクオンの方を見る。

 これ以上言っても仕方が無いので、クオンはヤスナガの屋敷に戻ったのだ。

 丁度、他のメンバーも集っており、ずぶぬれになっているセツナも居る。

 クオンは困り顔で答える。


「なんかよくわからないですけど俺の守護霊になったみたいです」

「よろしく」


 一方、亡霊の方は平気な顔で答えていた。

 それを聞いてジト目で後ろを見るクオン。

 ヤスナガはふと気になって尋ねてみる。


「それでこの方の名前は? 」

「そう言えばまだ聞いてなかったですね。名前は? 」

「それも忘れた」


 堂々と言い放つ亡霊。

 それを聞いて苦笑するヤスナガ。


「仕方ないのぅ。斑色の服を着ているから暫定で『マダラ』という名前にしたらどうじゃ? 」

「じゃあそれで」

「適当過ぎません? 」


 平然と答える亡霊にちょっとだツッコミを入れるクオン。

 だが、亡霊は平然としている。


「そうは言っても名前が無いと不便だからなぁ……」

「納得してるんならいいですけど……」


 納得がいってる亡霊と納得がいかないクオン。


「それはともあれ、魔獣の方も見つからんかったから今日はお開きにしよう」

「「「へーい」」」


 のんびりとしたヤスナガの声に村人が答える。

 あれから結局見つける事が出来ず、全員屋敷に帰って来たのだ。

 クオンが空を見上げると『裂傷』から差し込む日の光が小さくなっている。

 もうすぐ夜の帳が下りる事だろう。

 クオンも帰ろうとするとヤスナガが声を掛けた。


「クオンはウチの畑の物ちょっと持っていってくれ。食いきれないんだ」

「助かります」


 クオンは鍛冶の仕事をしているが、鍛冶の仕事自体、この村にはそんなにない。

 そのため、クオンは近隣の村の用事も受けていたのだが、最近は盗賊が闊歩するようになったのでめっきり仕事が減っている。

 ヤスナガが出した籠には野菜がいっぱいに詰め込まれていた。


「イッペイはどうする? 」

「今日は家で一杯やるつもりだったけど? 」

「一緒に行っていいか? 」

「いいよ」

「では私も」

「お前は家で食べなさい」


 一緒に飲みに行こうとするセツナを止めるヤスナガ。


「聞いたよ。クオン達に迷惑かけたそうだね。今日は九九を覚えるまで書き取りしなさい」

「うりゅぅぅぅぅぅぅ!!! 」


 滂沱の涙を流してクオンに助けを求めるセツナ。

 必死でしがみつこうとするセツナからするりと逃げるクオンは一言言った。


「ヤスナガ様。九九だけでなく、道徳も教えていただかないと」

「じゃあ、エルミング経典の書き取りもさせよう」

「なじぇに! 」


 さらに涙を増やすセツナと嬉しそうなクオン。


「ドナドナド~ナ~ド~ナ~♪」


 マダラが嬉しそうに歌う。

 クオンが不思議そうに尋ねる。


「何の歌ですか? 」

「牛を市場に持って行って売る歌だ。お前も歌うか? 」

「教えてください」

「じゃあ、一緒に」


 この世の終わりのような顔になったセツナをクオン達は歌いながら見送った。

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