第10話 マダラは戦士?


 そして夜


 クオン達はイッペイの家で一杯やっていた。


「ふぅ~」


 杯に注がれた酒を一気に飲むクオン。

 イッペイはおかあさんと二人暮らしなので料理は母親の担当だ。

 今日の肴は朝に釣った鮎やイワナで塩焼きにして一杯やっている。


 香ばしい川魚の匂いが辺りに立ち込めて、それだけで食欲が刺激される。

 箸休めとして出されている漬物や梅干しも美味しい。

 

 イッペイの母親がにこやかに笑いかける。


「お疲れ様。クオンも大変だったね」

「ありがとうございます」


 そう言ってごちそうにお礼を言うクオン。


「しかしけったいなことになったなぁ……」


 イッペイはクオンの後ろに居る亡霊に話しかける。

 マダラの方はと言えばクオンが食べる味を感覚で理解しており、幸せそうな顔をしている。


「あんたは一体どこから来たんだ?」

「チキュウって所だ……と言っても分からんだろうなぁ……」


 困り顔のマダラ。

 それを見て訝し気な顔になるイッペイ。


「記憶が戻ったのか? 」

「それが……断片的に何をやっていたかはわかるんだが……自分がどんな人間でどんな友達が居たかが思い出せないんだ……」

「けったいな記憶喪失だな」


 不思議そうに酒を飲み干すイッペイ。

 マダラがこまり顔で考え込んでいる。


「一番大事なことだったんだ……なのに思いだせない……」

「不思議なこともあるもんですねぇ……」


 クオンも不思議そうにしていたが、少し気になって尋ねる。


「生前は何をやっていたんですか? 」

「……戦争だ」

「……そっちもですか……」


 苦笑するクオン。

 何故ならヤオヨロズ島も内乱の真っ最中だ。

 ジミョウ王とダイカク王の戦いがヤオヨロズ全土を覆っており、同じ一族同士でも二手に分かれて戦っている。


「どこも大変だな」

「そうですねぇ……」



 クオンが他人事の様に言っている。


「今のヤオヨロズ島はジミョウ王側とダイカク王側とで分かれていて大変なんです。この近辺でも犬神と猫神の派閥が常に小競り合いをしています」

「こっちも似たようなもんだ。

「……記憶戻ってないですか?」


 明らかに戻ったかのような記憶に驚くクオン。

 だが、困った顔になるマダラ。


「それはそれで重要な話なんだが……俺たちが倒すべき敵もそのブランディールに居た奴で、そいつは俺達の宿敵だったんだ……」

「なのに思いだせない?」

「そうだ」


 困り顔になるマダラだが、クオンは気になることがあって尋ねた。


「……戦争に出ていたってことは戦士ってことですか? 」

「そうだが? 」

「じゃあ、どんな能力を持っていたんですか? 」


 この八百万では戦えるのは王種か貴種だけで雑種は戦わない。

 何故なら使える魔法が戦闘に適さないからだ。

 足りない分は戦闘用魔物を使うことで補強するが基本、能力を持つ者の数が戦力になる。

 

 つまり、このイセリアでは戦う=貴種か王種のみなのだ。

 だが、マダラは困った顔を擦る。


「……能力ってなんだ? 」

「……へっ? 」


 きょとんとする一同。


「我々は戦うときは銃などの武器を使うが……それの事か? 」

「ジュウが何のことかわかりませんけど槍や弓では力不足なのでは? 」


 クオンが不思議そうに聞くのも無理からぬことでこの世界では雑種が武器を持ったところで何の役にも立たない。


 この世界では王種たちが補助的な意味で武器を持つことが多いがそれは何百貫(何㌧)もの大きな武器を持つからなので当然ながら雑種の腕力ではそんなものは扱えない。


「なんというか……弓のような飛び道具だが……鉄板を撃ち抜くぐらいの火力がある」

「ああなるほど!それなら意味がありますね! 」


 クオンもそれで納得した。

 王種によってはその体が鋼の様に固い連中も居るので矢が通らないのだ。

 魔法もとびぬけて強いので矢を雨の様に降らせたところで蹴散らしてしまう。


 嬉しそうに尋ねるクオン。


「それほど強い弓ならば生前はさぞや御強い方だったのですね! 」


 それを聞いて困った顔になるマダラ。


「弱い方では無かったが……なんだか意味が通ってないような……」


 なんだか微妙な顔をしているマダラ。

 だが、そんな話を打ち切るかのようにイッペイが声を上げた。


「クオン……お前はいつセツナと結婚するんだ? 」


 するとクオンが困った顔になる。



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