第11話 魔人の生き方
「クオン……お前はいつセツナと結婚するんだ? 」
ほろ酔いのイッペイの言葉にクオンは困った顔になる。
「やるわけないだろ。無理だよ」
「でも、向こうはそのつもりだし、村のみんなもそのつもりだぜ? あきらめろよ」
「やだよ」
すでに酔っぱらったイッペイは足を崩して、ぶらぶらしている。
夜着に着替えており、だらしない恰好で飲んでいる。
「大体、お前の方こそどうなんだ? そろそろいい年だろ? 」
「俺は俺でさがしてんだよ。他の土地に行ったりしてんだぞ? 」
「主人も他の国で探してるんだけどねぇ。こんなご時世だから、中々見つからないのよ」
困ったことにマガツ村は嫁不足で悩んでいる。
というよりは若者不足である。
実は数十年前に山賊の窮奇一党が村に略奪に来て若者の大半がやられたのだ。
そのため、村に居る年頃の若者はクオン、セツナ、イッペイ、アヤメしかいない。
この中でアヤメはちょっと年が上の217歳で、どちらかと言えば村の中年に人気だ。
よりどりみどりなのが災いして好き放題遊んでいる。
クオン達より一世代下はまだ年頃じゃないので、それはそれでおかしいのだ。
イッペイの言葉にクオンは仏頂面になった。
「セツナやるよ。嫁にもらえば? 」
「セツナはお前じゃなきゃ行かないよ。ヤスナガ様も許さんだろ」
「なんだよなぁ……」
本来、貴種の者は貴種と結婚するのが習わしである。
そうでなければ血の強さを守れないので、よほどの事が無い限り許さない。
だが、セツナの場合は頭がアレすぎるので貴種の貰い手が居ないのと、村に適当な貴種が居ないのだ。
「大体、セツナの年は知ってるだろう? 」
「知ってるよ。142歳だろ。ついでに言えばお前は153歳な」
「もう婚期が過ぎかけている。早く貰ってやれよ」
魔人の平均寿命は500歳でおよそ1000歳前後が肉体の限界寿命に当たる。
この寿命の長さと魔法の力こそ魔神の眷属の証である。
とはいえ、いい事ばかりでは無く、子供が非常に生まれにくく、子供自体は十月十日で生まれるが、成人になるまでに百年以上かかるのだ。
平均寿命もあいまって、女性の婚期はおよそ120歳から190歳前後とその寿命のわりに短い。
それを知っているクオンは苦い顔で酒を飲む。
「……考えておくよ」
「早く答えを出せよ。時間が無いんだからな」
そう言って、イッペイは念押しする。
そしてすぐに話を代えた。
「……まあいいか。ちょっと酔ったみたいだ。俺はそろそろ寝るよ。お前は泊まってくか? 」
「帰るよ。今日は月夜みたいだしな」
「……ホントだ。月陰が出てる」
そう言って一兵が『裂傷』をみる。
空に……というより、大地に大陸位の大きさの大きな裂け目から月の光が漏れ出ており、あたりを優しく照らしている。
普段は一寸先も見えないほどの真っ暗闇の夜がそこはかとなく明るい。
『裂傷』
太古の昔、創造神がこの魔界を創造する際に作った大地の傷。
太陽は季節の差こそあれ、必ずここから光が入る。
その光がイセリアの中心にある「核太陽」に当たるとイセリア全体を照らす燃える太陽になるのだ。
そのため、イセリアの空は常に夕暮れ時のように赤いのだ。
そして月陰とは裂傷から漏れ出る『レオリス』の光で中々見れるものではない。
「じゃあ、明日もまたな」
「ああ」
そう言って外に出るクオンと見送るイッペイ。
「ああ、ちょっと待った」
「何だ? 」
「おぶさり幽霊に気をつけろ」
「……ひょっとして信じてるのか? 」
「信じてはいなかったけど、ヤスナガ様がああ言ったってことは何かあるのだろうなと」
確かによくある幽霊話だがクオンは苦笑する。
「仮に誰かがおぶさってもこの人が気付くだろ? 」
そう言って後ろに居るマダラを指さすクオン。
マダラはどう答えていいのかわからず困っている。
「ガキじゃあるまいし、今頃そんなの怖くなるかよ。単にまだ飲みたいだけだろ」
「ばれたか。まあいいや。気をつけて帰れよ」
「わかったよ」
そう言ってクオンは外に出て手をかざす。
ぼぅ
クオンの作った鬼火が明かりとなって夜道を照らしてくれる。
「ほんじゃ。今日はごちそうさまでした」
「またおいでクオン」
「すんません。では失礼します」
そう言ってクオンはイッペイの家を後にした。
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