第12話 人間?
薄暗い夜道を月陰が照らす。
そこに火の玉を動かしながらクオンは歩いていた。
暗い夜道を歩いているとマダラがぽつりと声を上げる。
「……その火の玉はなんだ? 」
「……へっ? 」
不思議そうなクオン。
だが、マダラは気にせずに話す。
「なんだか妙だな。ここの人はその火の玉を誰でも出せるのか? 」
「??? 当り前じゃないですか? 」
不思議そうに答えるクオン。
鬼火は初歩中の初歩で使えない魔人は居ないのがイセリアの常識である。
火の玉を作る魔法は火の魔神の血族の力だが、この時代の魔人は必ず少しずつぐらいは他の魔神の血を引いているのでこれぐらいならだれでも使える。
例外として王種になると血が濃すぎて火の魔神の力が使えないことがあるがそれは例外である。
それにマダラの聞き方はそういった意味ではないとクオンも気付いていた。
「ひょっとして周りに灯火が使える人が一人も居なかったのですか? 」
「ああそうだ」
あっさりと答えるマダラ。
そして空を見上げる。
「それに俺が居たチキュウはこんな空をしていない。まるでチキュウの内部に住んでるみたいな感じだ」
その言葉を聞いてぞっとするクオン。
(まさかこの人……)
背中に冷たい汗が流れる。
恐る恐る尋ねてみるクオン。
「……ひょっとして地上の『人間』ですか? 」
「そうだが? 俺は地上に住んでいたし、それが当たり前だった」
それを聞いてぞっとするクオン。
『人間』とは創造神イセルを地下奥深くへと追いやった邪神たちの眷属である。
魔人たちの十分の一程度寿命しかないが、繁殖力旺盛で獣のように戦う。
同じ邪神の眷属である『晶霊』と共に魔人たちに忌み嫌われている存在だ。
もっとも、神話のおとぎ話の範疇を超えないし、そもそもイセルで人間に出会ったと言う噂は聞くことがあっても本当に人間だった試しは無い。
だが、彼は亡霊とは言え、あっさり人間であると答えているのだ。
クオンはそのことをマダラに説明するとマダラは苦笑した。
「視点が変われば邪神か……」
「そうです。だから人間というのはあまり人に話さないようにしてほしいです」
「わかった」
「やけにあっさり答えますね」
物分かりが良すぎて逆に不安になるクオン。
だが、マダラは苦笑したままだ。
「立場が変われば神が悪魔にもなるのはよくあることだ。もっとも、俺は地上の『人間』とも違う可能性もあるぞ?」
「どういう意味ですか?」
「俺の星にあんな傷は存在しない」
そう言って『裂傷』を指さすマダラ。
「だからこの星の地上で生まれていないんだ。地上に居る『人間』が俺と一緒かどうかもわからん。全然別の人型生命体の可能性もある」
「なんか難しい言い方をしますねぇ……」
感覚の一部を共有しているせいか、言ってることの意味がおぼろげにだが伝わっているのだ。
なので言いたいことが何となくわかる。
「まあ、記憶喪失だから細かいことはわからんが」
「結局はそこに行きつくんですよねぇ……」
苦笑するクオン。
ざぁぁぁぁ
風に揺られて木々がざわめいている。
それはいいのだが……
「妙だな……」
マダラも訝し気に眉を顰める。
人の気配がして風が妙に生暖かい。
クオンはあたりを見渡してみるがこれと言った人影は見えない。
ひゅぉぉぉぉぉ
鬼火をあたりに動かしまくって周りの様子を慎重に確認するクオン。
「気のせいか……」
帰り際に変な事を聞いたせいで気が高ぶっていたのだろうとクオンが一歩前に出たその時だ。
どさっ
突然、重い物がクオンの背中にのしかかる。
「なっっっ!」
あまりのことにクオンは息を飲んだ!
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