第4話 謎の化け物
領主の館に着くとすでに何人もの人たちが集まっていた。
「お~クオン。お前も呼ばれたか」
「ヤマシタさんもですか? 」
初老のおじさんがクオンに声をかける。
館の庭には十人ほどの村人が集まっていた。
村の人口が百人前後である事を考えると戦える人間がほぼ全員集まったと言える。
いつもはこの半分しか集まらないのだ。
「そんなにすごい魔物が現れたんですか? 」
「みたいだな。わしも詳しくは知らんが」
ヤマシタが険しい顔で答える。
彼は魔人の中でも貴種と呼ばれる魔神の血がより強い一族だ。
魔人には雑種、貴種、王種の三種類が居る。
雑種とは小さな魔法しか使えない一般人で普通に仕事をする人たちである。
イッペイやクオンがそれに当たる。
それに対して貴種は戦闘に通用するレベルの魔法が使える者たちで雑種よりも魔神の血が濃い。
そして王種とは名前の通り『魔王級』の魔法が使えるイセリアで最も魔神の血が濃い一族でその力は地形を変える程である。
マガツ村は小さな村なので貴種と言えるのはわずか四人しかいない。
領主一族のヤスナガとセツナ、そしてヤマシタとカワダだ。
ヤマシタとカワダは独り身の隠居ぐらしでコドロは子供が居たのだが、戦で無くしている。
「皆の衆良くて来てくれた! 」
屋敷の中から温厚そうな顔の初老の侍が現れる。
領主のコドロ・ヤスナガだ。
「話しは大体きいておるかの? 」
「大体はのぅ」
頭頂の禿げあがったおじさんが答える。
彼はカワダで河童族の宿命で頭の上が禿げている。
「タナカの家で昨日の夕暮れに身の丈1丈(約3m)を超える魔物が出たそうじゃ」
そう言ってヤスナガが説明する。
「魔物はタナカを百回ぐらい殴ったあと、関節技を極めて、最後にサバ折をして去って行ったそうだ」
「身の丈一丈の魔物が? 良く生きてましたね? 」
「細君の申告ではな。ちなみに当日はアヤメと逢引きの真っ最中でな。アヤメの話では魔物はタナカの絶叫に驚いて逃げただけでやったのは奥さんの方らしい」
くすくすと笑い声が上がる。
一部の者が「あいつも懲りねぇな」「もうやめればいいのに」などと言ってるがその者たちもアヤメとちょくちょくしているので人の事ばかり言えない。
「魔物の特徴は? 」
イッペイが真剣な顔で質問する。
魔物を扱う商人である以上、魔物の特定に余念が無い。
「どうも猿か熊のような生き物らしい。暗かったので今一つ顔がわかりにくかったそうだが、顔は細長かったそうだ」
「そうなると大熊かもしれませんね」
「そうかもしれん。じゃが、一つ奇妙な事があるんじゃ」
「なんでしょう? 」
「畑の土が掘り返されていたのじゃが、大根には一切手を付けてなかったのじゃ」
全員が息を飲んだ。
クオンは訝し気に尋ねる。
「……単に肉食なだけでは? 」
「畑を荒らすのもおかしいじゃろ?何かわかるかイッペイ」
「……検討もつきませんね」
普通、魔物の被害は家畜への被害か作物への被害、それから人が襲われる被害の三つしか無い。
家畜に襲えば肉食、作物を食べれば草食である。
土を掘り起こすのは根っこを食べる草食動物の習性である。
同様の理由でイノシシなどは土を掘り起こす。
それ故に大根を食べないのはおかしいので全員が首を捻っている。
「気味が悪いですね」
「うむ。だから早々に退治してほしいのだ」
その大きさでは歩くだけで被害が出るので早めに退治しなければいけないのだ。
「それからもう一つ話がある」
「なんでしょう? 」
「最近おぶさり幽霊が出ると言う話なのだ」
「おぶさり幽霊? 」
妙な話だ。
「おぶさり幽霊とは怪談のあれですか?」
ヤマシタが不思議そうに答える。
「そのようなのだが……ちょっと変なのだ」
「変? 」
カワダさんがオウム返しに答える。
「夜道を歩いて居ると急に背中にのしかかってくるだけだそうじゃ。特に悪さをするわけではないのだが……」
「猿か何かでは? 」
イッペイが言う。
「かもしれん。じゃが、猿ならもう少しうるさいもんじゃろう? こやつの場合はなにも言わずにそのまま消えるらしい。それに猿の毛も身体についてなかったらしい」
「それはそれで奇妙ですね」
猿なら毛が体に付くだろう。
少々特殊な生き物らしい。
「今のところ村人の被害は無いのじゃが、旅人の死体が川に上がってきておる。どっちが原因かわからんが、これも探ってほしい。何か関係があるかもしれん」
「「「「へーい」」」」
全員が答える。
「3人一組で探してほしい。ちょうど3組できるからセツナ、カワダ、ヤマシタは別々の組に入ってくれ」
「了解です」
「わかりました」
「クオン君の組に入ります」
「ヤマシタさん一緒の組に入りましょう」
「なぜですかぁ~~!!!」
結局ヤマシタからは「セツナに悪いから」と言われて断られたクオンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます