第17話 不思議な魔獣


 急いで村に下りるとそこはすでに戦場と化していた。

 村の周りの林の中で手に槍を持った他の村人が必死で何か大きな魔獣を威嚇している。


「なんだありゃ?」


 イッペイが不思議そうな顔をする。

 身の丈一丈(3m)と聞いていたがどうみても二丈(6m)はある。

 手には巨大な爪があり、あれで殴られたら、東屋が吹っ飛ぶレベルである。


「でけぇ!」

「逃げなさい!」


 子供が無邪気に指さしてはしゃいでおり、それを母親が拳で殴ってから連れて逃げている。


「あれは確か……」


 マダラが記憶を探っているようだが、クオンはそれを気にしている時間は無い。


「クオン! 」


 空から声が聞こえてくれる。

 ヤマシタがかけつけて来たのだ。

 天狗族は風を操るので空を飛びながらこちらへと向かってくるヤマモト。


「こいつは一体……」


 さらに不思議そうな顔をするマダラ。

 困惑するマダラを尻目に事態は切迫してくる。


「ヤマシタさん! 」

「お前も手伝え! 」

「はい! 」

「二人はあれを山に逃がさないように水辺に追いやれ! 」

「「はい」」

「セツナは水辺で待機しろ! 」

「やだ! クオン君と一緒がいい! 」


メキョッ


 クオンの槍の石突がセツナのこめかみに当たる。


「こめかみはよわいの~~~」

「アホなこと言ってないでさっさと行け!」

「ううう、悲しいですぅぅぅぅぅぅ!!!」

「後で一緒にあそんでやるから!」

「行ってきます!」


 脱兎のごとく走り去るセツナ。


「セツナの扱いがうまいなぁ」


 ヤマシタが空を浮きながら感心したように答える。


「好きで得意になったわけじゃないです」

「やっぱりセツナを嫁に出来るのはクオンしか……」

「行ってきます! 」


 ヤマシタの言葉を聞かずにそのまま魔獣に立ち向かう村人の戦列に並ぶクオン。


「ヤマシタさんが来てくれた! セツナも居るからそのまま川の方に追いやってくれ!」

「「わかった」」


 クオンがそう言うと村人たちが威嚇の方向を変え、川へ追いやろうと槍を魔獣に向ける。


ブォン


 後ろから突風が起きて魔獣がたたらを踏む。

 ヤマシタの風の攻撃だ。


「ふん! 」


 後ろからヤマシタの気合いを入れた声が聞こえると同時に再び突風が巻き起こり巨獣が倒れる。


「そのまま追いやれ! 」

「「「わかった! 」」」


 全員で追いやろうと村人が槍を構えたその時だった。


ドン!


「ブフォ!」「ゴァ!」


 二人ほど謎の魔獣の体当たりを受けて吹っ飛ぶ。

 追いやろうとした包囲網があっさり崩壊する。


ブォン


 再び突風が吹いて魔獣がたたらを踏み、後ろに倒れ込む。

 ヤマシタが風の魔法を使ってくれるのでとりあえず戦線は維持できているが……


「きりが無い! 」


 ヤマシタが苛立たし気に叫ぶ。

 普通の村人では手も足も出ないのでそこに止めるのが精いっぱいなのだ。


「イッペイ!なんとかできないか! 」

「普通の獣は専門外だよ! 」

 

 イッペイも槍で威嚇しながら叫ぶ。

 どうにかできないかと村人が試行錯誤していたその時だった。


キシャァァァァァァ


 唸り声が聞こえたので全員がそちらを見ると、胴周りが人と同じぐらいの白い大蛇が這ってこちらに向かってくる。


「無事か! お前達! 」


 蛇が人間の言葉を叫ぶ。

 それを聞いて嬉しそうに声を上げるクオン。


「ヤスナガ様! 」

「何とか押さえつけるぞ! 」


 ヤスナガの加勢に喜ぶ村人たちだった!



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