第16話 魔獣の痕跡
四人と一匹が再び山の中で探索を始めたがそう簡単には見つからなかった。
「しかし見つからんねぇ」
イッペイが苛立たし気にぼやく。
それも仕方ない二日続けて草刈りしかやってないのだから。
「ぷっぷ~♪」
「プップちゃん!ジャンプです!」
「ぷ~♪」
「お上手ですよ♪」
「プップ~♪ 」
そんな彼らを尻目に遊んでいるセツナを、うらめしそうにちらりと見るイッペイ。
だが、そんなイッペイをクオンはたしなめる。
「昨日の惨禍を忘れたか? あれぐらいでちょうどいいんだよ」
「……そうだったな」
イッペイはため息をついたが同時にある物に気付く。
「おい! なんかあるぞ! 」
イッペイが草むらを指さすので覗いてみるクオンとマダラ。
「……荒らされてるな」
「タナカさんの畑と同じだな。近くの山芋が食われていない」
穴が掘り起こされており、無造作に山芋が捨てられている。
三人は用心して周りを探るがどうやらこの場にはいないようだ。
マダラが不思議そうに辺りを見渡す。
「やたら掘り起こしてるな。なんだこれ? 」
あたりは凄まじい惨状であった。
土という土は掘り起こされており、地形が原型をとどめていない。
クオンが怪訝そうにつぶやく。
「何やったんだこれ? 」
「巣を作ろうとしたのか? それにしちゃ無差別だな? 一体……」
マダラも不思議そうに辺りを見渡す。
するとイッペイが声を上げる。
「おい! これみろ! 」
言われてクオンとマダラがそれを見てみると大きな糞があった。
所々に黒い粒粒がある糞で、イッペイはおもむろに近くの枝で糞をつつく。
それを見てクオンが苦笑する。
「……子供じゃねえんだから遊ぶなよ……」
「違う、糞の中身で食性を調べているんだ」
「……わかるの? 」
「食性の違いぐらいはな」
そう言って糞を崩していたイッペイの顔色が曇る。
「……まずいな。肉食だ。それにまだ近くにいるぞ……」
当たり前だが、身の丈一丈(3m)の肉食獣が村の周りに徘徊するのは危険極まりない。
マダラが怪訝そうに尋ねる。
「どうしてわかる? 」
「この粒々は全部虫だ。虫を食う生き物は肉を食う」
「なるほどな」
基本、虫を食べる生き物は肉食なのだ。
そしてさらに顔を歪ませるイッペイ。
「それにこいつは魔物じゃない。獣だ」
真剣な目で糞を睨む一兵。
それを聞いて不思議そうにするマダラ。
「魔物より獣の方がまずいのか? 」
「こと、肉食になるとますいですね。肉食魔物は人を殺しても食べません。でも肉食獣は人を食べます」
「……つまり、怪我で済むのか命まで取るのか?ってことか」
「その通りです」
実は魔物は専用の食べ物を食べるだけで基本、人間を食べない。
習性で動くものを口に入れてしまう癖があるのだが吐き出すのだ。
とはいえ、何mもの魔物に噛まれればそれだけで死に至ることも多いが、それによって魔物が学習してくれるので人を襲わなくなるのだ。
そしてもっとも重要なモノがあったのだが、最初に気付いたのはマダラだった。
「おい、これなんだ? 」
妙な形の穴が地面にある。1寸(3㎝)ほどの深さで妙な形だ。
イッペイがそれを見て顔をこわばらせる。
「足跡だ」
「これがか? 」
クオンの血の気が引いた。
足跡の大きさは二尺(60cm)くらいあるのだ。
「相当デカいぞ」
「こっちだ」
イッペイが草むらをかき分けて歩きだす。
慌ててクオンが声を上げる。
「ちょっとセツナ連れてくる! 」
そう言ってクオンがセツナの元へ行くと……
「プップ~♪ 」
「プップちゃんは踊りがお上手ですね~」
何故かは知らないがプップは阿波踊りを踊っていた。
「えらい器用な生き物だな……」
マダラも不思議そうに呟く。
いらだったように叫ぶクオン。
「セツナ! 行くぞ!」
「あ~ん。待ってください~」
セツナは慌てて立ち上がり、プップと共にクオンの後を追う。
イッペイは先ほどと違い、草むらをゆっくりかき分けて進んでいる。
「どうだ? 」
「先に道を開いてくれてるから進みやすいが……」
イッペイは歩きながらも慎重に前へ進む。
身の丈一丈を超える生き物が進んだ場所は、道が出来ているので進みやすいのだが、一方でいきなり出くわす可能性も高いのだ。
そしてイッペイは重要なことに気付いた。
「こっちに向かってるみたいだ」
そう言ってゆっくりとある場所を指さすイッペイ。
それを見て凍り付くクオンとマダラ。
「なぁ。ひょっとして……」
「そうだな……」
こめかみにたらりと冷や汗を垂らしながらイッペイが答える。
「村に向かってるな」
イッペイが言うと同時に村から叫び声が聞こえた。
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