神官の鎮魂

第23話 ユウエンは悪戯好き


チュン……チュンチュン……


 イセリアにも雀が居る。

 そして雀が朝を教えてくれる鳥なのはヤオヨロズ島でも変わらない。


 雀の声を聞いてクズリュウ大魔王の王子 ユウエンは目が覚めた。

 寝床から起き上がり軽く伸びをする。


「お目覚めでしょうか? 」


 侍従の少年が障子戸を開いて顔を見せる。

 

「おはよう」

「おはようございますユウエン様」


 手を床についたまま姿勢を崩さない侍従。

 それを見て少しだけ笑うユウエン。


「昨日は夜遅くに起こしてすまなかったな」

「とんでもありません。それよりもユウエン様は良い夢が見れましたか? 」


 それを聞いて苦笑するユウエン。


「夜と一緒だ。再び英霊マダラになった夢を見た」

「またですか? 」


 ユウエンの言葉に困り顔になる侍従。

 なにかと問題がある夢の内容なのであまり聞きたくはないのだ。


 

 

 血筋が全ての魔界イセリアにおいては魔神の血が濃いのは大魔王としての最低条件になる。

 言うまでも無く、雑種は最も血が薄く、魔法がほとんど使えないので大魔王からは程遠い存在である。


 始祖が雑種なら目の前に居るユウエンはどうなるのか?

 そしてそのようなことを知った自分はどんな目に遭うのか?

 恐らく口封じのために殺されるだろう。

 考えただけでも恐ろしい話である。


 侍従のそんな葛藤に気付いたのかユウエンは苦笑する。


「今日はウィーウィルのロッキュー様がいらっしゃるのだろう? 」

「はい!  夜には来られると思います! 」


 ウィーウィルのロッキューは大魔王クオンの忠臣の一人でもあり、のちにヤオヨロズの大神官となったイッキューの子孫である。


 当然ながらロッキューも大神官の一族の一人で、ヤオヨロズでも有数の王種である。


「この件はロッキュー様と話そうと思う。

「そうしていただけるのが一番かと」


 そう言ってほっとする侍従。


 何しろ話が大きすぎるので彼では対処が難しい案件だった。

 ユウエンはそんな彼の様子をみて笑う。


「あの後でみた夢はイッキュー様とクオン様が初めて会ったときの話だったから都合がよい」

「そうだったんですか? 」


 ちょっとだけ興味が浮かぶ侍従。

 言ってしまってから慌てて口をふさぐ侍従。


「聞きたいか? 」

「聞きたくないです! 」

「それはな……」


 聞きたくないと耳をふさぐ侍従を見てにやりと笑うユウエン。

 ちょっとした悪戯を思いついたからだ。

 ユウエンは嬉しそうに口を開く。


「実はな……」

「やめてくださいぃぃぃぃ!!!! 」

「一×一は一だ……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」


 何を言っているか全く気付いていない侍従と面白がるユウエン。

 侍従は嫌な話をされてると思って耳を閉ざしているのだが、当のユウエンはかけ算九九を言っている。

 ユウエンはさらに悪い顔になってエスカレートさせる。


「二×二は四で……」

「いやいやいやいやいや! 」

「三×三は九だ」

「聞きたくなぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!!! 」


 侍従が気付いたのは叫び声に何事かと思って集まった人たちの顔を見てからだった……

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