第31話 郷に従え
「そんなに怖がらないで下さい。私たちは本当に宿が欲しくて来ただけですから」
ころころと笑う白人美女のタルタ。
綺麗な顔で笑うのだが今のクオン達にとっては恐怖でしかない。
さっきまで鼻の下伸ばしていたイッペイにいたっては、彼女が笑っただけで震えている。
それを見て得意げにカラフルなスーツを着た黒人イッキューが言った。
「ほら、タルタがあんなに暴力的にふるまうからみなさん怯えちゃったじゃないか」
「イッキューが変な事ばかり言うからでしょう」
「どこがおかしいのだ。礼には礼で返すのが紳士というものだよ」
「お願いですから喧嘩は止めてください」
半泣きで懇願するヤスナガ。
この二人が喧嘩したらそれだけで村が壊滅しかねないので必死だ。
くいくい
セツナがクオンの服の裾を引っ張る。
「どうしてみんな怯えているんですか? 」
「目の前の人間が村一つ壊滅出来る魔人だとわかればこうなるわ! 」
村に居るのは貴種のみで当然ながら王種の彼らに立ち向かう術はない。
彼らの喧嘩は天災なみなのだ。
「ほら、みんなタルタに怯えているよ。暴力は良くないよ?」
「イッキューに襲われないか心配しているんですよ」
「私が人を襲うわけないだろう? 紳士を馬鹿にしてはいけないなぁ」
「ですから喧嘩は止めてください」
再びヤスナガが泣きそうになりながら止めに入る。
すると、マダラが不思議そうに声を上げた。
「ひょっとして性に関することだけ感覚が違うんじゃないか? 」
「……性に関する感覚だけ? 」
マダラの言葉に訝しむクオン。
だが、マダラは冷静に答える。
「恐らくとんでもない感覚をしているぞ」
「とんでもない? 」
「もっと軽い……挨拶みたいなものかもしれん」
「……そんなことがあるんですか? 」
セックスして当たり前の世界なぞエロ本の中でしかない。
そんな世界がまかり通るわけがないのだ。
するとイッキューがこちらを振り向いた。
マダラが冷静に尋ねる。
「イッキューさんにとってセ〇クスとはどういう物ですか? 」
「……ふむ」
訝しげにこちらを見るイッキュー。
「私にとってセ〇クスとは挨拶だよ。基本的な礼儀だ。相手を敬愛し親愛の情を伝える手段だ。もっとも原始的でもっとも大切でもっとも神聖な物だよ」
「……予想はしていたがすげぇ答えだな……」
「かっこよく言ってるけどそれ変態ですからね? 」
口々に呆れる二人。
「あの……この人の国ではセ〇クスが挨拶代わりなんです」
タルタが控えめに補足する。
「みなさんにとってのお辞儀と一緒で、この人の国ではセ〇クスが当たり前の挨拶になってるんです。だから男性も女性も簡単にしてしまうんです」
「まるで天国みたいな世界だな……」
イッペイが唸るがタルタは構わずにそのまま続ける。
「ですのでセ〇クスしないのはお辞儀をしないのと一緒で、むしろ失礼にあたる国なんです」
「ああ、そういうことか」
ようやく納得する面々。
メイカに対しても「お礼」をしようとしただけで、イッペイと三人でやろうと言ったのは「挨拶と一緒に親睦を深める」つもりだったのだ。
「また珍妙な国があるものですな」
ヤスナガがあきれ顔になる。
「どこにある国なんですか? 」
「裂け目の端にある島です」
「「「 なっ! 」」」
全員がビビった。
裂け目のすぐ隣に島があることを知っていたからだ。
とはいえ、どんな所からはあまり知られていない。
「ひょっとしてあの島ですか? 」
「はい」
あっさりと答えるイッキュー。
裂け目の周りはヤオヨロズ島から見ても分かるほど潮の流れが速い。
また、一度裂け目に入るとそのまま「地上の地獄」へ行ってしまうと言われている。
空も恐ろしい程早い気流があり、一度近づくとそのまま飲み込まれてしまうので滅多に近づく者も居ないのだ。
「あそこは場所柄、漂流物がたくさん漂着してしまい、それによって死霊が集まりやすいんです。だから鎮魂神官達が治めているんです」
「なるほど」
イッキューの説明に納得するヤスナガ。
続けてヤスナガが尋ねる。
「まあ、それはそれとして、今回はどのような事でここへ来られたんですか? 」
「実はこの村の周辺に大きな淀みを発見いたしまして……」
「淀み? 」
聞きなれない言葉にヤスナガは訝しんだ。
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