第30話 王種


「失礼いたしました」

「いえ……」


 平謝りする白人美女と困り顔のヤスナガ。

 カラフル黒人の方はちょっとだけむすっとしている。


 今は囲炉裏の前で二人とも並んで座っている。

 他の者はというと囲炉裏を挟んで反対側にヤスナガを一番前にその後ろにクオンとイッペイ、さらに後ろにセツナとメイカが並んでいる。


「何がいけないのだ……」


 カラフル黒人がちょっとふくれっ面になっている。

 間違っている事に理解できないらしい。

 ヤスナガが代表として声を掛ける。


「それで……どういった事でしょう? 」

「どういった事とは? 」

「……失礼ですがまだあなたがたの事を詳しくお話していないと思うのですが……」


 控えめに素姓を話せと伝えるヤスナガ。

 それを言われて「失礼しました」と前置きして話し始めるカラフル黒人。


「おお、そうでした。申し遅れました」


 ニカっと笑うカラフル黒人。


「私はラダロア法国神官のイッキューと言います。です。そしてこちらは従者にして王種の百腕巨人ヘカトンケイルゾンビであるタルタロスです」

「タルタロスでございます。タルタとお呼びください」


ぴきっ


 二人の紹介にその場の空気が先ほどと違う意味で凍り付いた。


ガタッ!


 クオンとイッペイがおもむろに立ち上がる。


「急用思い出しました」

「僕も」


パシパシ♪ドテテン♪


 逃げだそうとしたクオンとイッペイは足を誰かに掴まれて転倒した!

 

 クオンはヤスナガに向かって恨めしそうに言う。


「ヤスナガ様! なんでぼくの足を掴んでいるんですか! 」

「同じ事お前に言いたいんだけどなクオン! 」


 ヤスナガの代わりにイッペイが恨めしそうに叫ぶ!

 だが、クオンはイッペイに向かって叫ぶ!


「ひとりだけ逃げるなんて許さないからなイッペイ」

「同じ事お前に言いたいぞクオン」


 今度はヤスナガが恨めしそうに答える。

 三人の突然の行動に訝しむカラフル黒人のイッキュー。


「どうされました? 」


 イッキューは三人の様子に不思議そうにつぶやく。

 ヤスナガは逃げようとするクオンの足をがっしり掴んだまま困り顔だ。


「王種とは思いませんでしたから……」


 ヤスナガが冷や汗たらたらで答える。


 


 名前の通り地域ごとの王族である事が多く、貴種よりもはるかに強く、その強さは桁が違う。


 特に鎮魂神官の王種とは死霊を自在に操れる最高位の神官の一種で

 その能力は生前より遙かに強い腕力を持ち、雑種でも貴種と互角に渡り合える能力を持つようになる。


 魂を自在に操る鎮魂神官と生前より遙かに強くなった王種の巨人である。

 この二人だけで村を全滅させる事も出来るぐらいだ。

 王種に立ち向かうには同じ王種かそれを超える神種しかいないが、神種はネフィアの教皇一族ぐらいしかいない事を考えれば文字通り敵はいない。


「そんなに怖がらないで下さい。私たちは本当に宿が欲しくて来ただけですから」


 ころころと笑う白人美女のタルタ。

 綺麗な顔で笑うのだが今のクオン達にとっては恐怖でしかない。

 さっきまで鼻の下伸ばしていたイッペイにいたっては彼女が笑っただけで震えている。


(とんでもない人たちが来たな……)

(ああ、全くだ……)


 クオンとマダラは憂鬱な顔になった。

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