第46話 土下座
一件落着したかに思えたが、それで終わるものではない。
「申し訳ない」
ヤスナガは自分の屋敷の上座にイッキュー、タルタ、クオンを座らせて深々と土下座をしている。
他の村人もクオン達に向かって頭を下げる。
「いえいえ。そう言っても仕方がありません。奴らが巧みだっただけです」
「本当にそうですよね。人を騙すのがうまい奴らでした」
にこやかに許すイッキューに賛同するクオン。
クオン自身が彼らの詐術に一杯食わされたのでどれだけ難しいのかがわかる。
「いくつもの村を荒らした極悪人と書いてあります。とんでもない奴らだったんですね」
クオンはそう言って神社に置いてあった手配書を見る。
あの時は良く見えなかったが、手配書には『白人女は幻影を操る巨人』と書いてあるし、男の方は『炎を操るイフリート』と書いてある。
「それは仕方ないよ。幻術は時に人の心にも作用する。きっと君の眼には彼らに都合よく映っていたんだろうね」
「そんなもんですかねぇ……」
「実際に見ただろう? 独身のはずのネギ神官が結婚していても周りの人が何の疑問も持たない。そうやって彼らは少しずつ村を潰していったらしいね」
「とんでもない悪党ですね……」
ぞっとする全員。
イッキューが居なければこの村は全滅していた所だろう。
「じゃあ、淀みが生まれていたのは……」
「後でネギさんの所へ行くけど、他に犠牲になった人の死体が集まっているんだろうね」
「犠牲になったって……」
犠牲になったのはネギだけのはずなので不思議に思うクオン。
するとイッキューが苦い顔になる。
「多分……君らの中では『魔物に襲われた』とか『崖を踏み外して川に流された』となっているんじゃないかな?」
「あっ! 」
それを聞いてあることに気付くマダラ。
不思議そうになるクオン。
「どうしました? 」
「そう言えば旅人が魔獣に殺されたって聞いたけど、なんでそれがわかったんだ? 」
「言われてみれば…………」
旅人が魔獣に殺された場合、いつの間にか知らない人の死体が峠にある時に出る話だ。
だが、最近は物騒なので無闇に峠に行く人は居ない。
「ついでに聞くが魔獣に襲われた旅人の名前は? 」
「ゴサクさんとキュウベェさんと…………ってあれ? 」
クオンの顔が蒼白になる。
クオンだけではなく全員の顔が青くなる。
「…………ゴサクもキュウベェもうちの村人だ……」
ヤスナガの顔が青くなる。
知らず知らずのうちに彼らの術中に嵌まっていたのだ。
「でも僕らが一週間前に会ったネギさんは本物だった……」
「信仰上の間違いを正していたな」
同意するマダラ。
イッキューが辛そうに答える。
「恐らくは殺すたびにその人に成り代わっていたんじゃないか? 財産を絞りつくしてから次の人に成り代わるを繰り返しているとか……」
「……なんて外道だ……」
怒りに震えるクオン。
だが、そんなクオンに優しく話すイッキュー。
「でも大丈夫だ。君が彼らの敵を討ってくれたんだよ」
「……ありがとうございます」
イッキューの物言いに感謝するクオン。
話の区切りがついたところで申し訳なさそうにヤスナガが声を上げる。
「それでお願いがあるのですが……」
「なんでしょう? 」
「この村にしばらくの間で宜しいですので滞在して頂けないでしょうか? 」
「……ヤスナガ様? 」
流石のクオンも眉を顰める。
この状態でこれをお願いするのは虫が良すぎるだろう。
だが、ヤスナガも困り顔でお願いする。
「この村の神官が死んでしまい、代わりの神官が来るまでで宜しいですので頼めませんか? 何しろ人が少ないもので」
「・・・・・・・・・・」
それを聞いてクオンは黙り込む。
神官が不在なのは別にダメではないが困りものである。
それにイッキューは王種でタルタも王種のゾンビである。
ヤオヨロズ島の現況を考えると居てくれるだけでもありがたい。
(それにしたって虫が良すぎるよなぁ…………)
(さすがに無理だろう……)
クオンもマダラも流石に渋面になっているが、イッキューはにかっと白い歯を光らせて笑った。
「いいでしょう! やらせていただきます! 」
その言葉に周りから歓声が上がる!
「イッキュー? 」
「いいじゃないか。困っている人を助けるのが神官の仕事だよ」
怪訝そうな顔のタルタと陽気に答えるイッキュー。
「早速新しい神官の歓迎会じゃあ!」
酒好きのカワダが嬉しそうに叫ぶ。
周りのみんなもしょうがない奴だなと苦笑いするが、面白そうなので乗っかる雰囲気だ。
それを聞いて意気揚々とイッキューが叫んだ。
「いいですね! さっそく乱交パーティーしましょう! 」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
イッキューの陽気な声に周りがドン引きすると同時にタルタは頭をはたいた。
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