第28話 真偽


 外の様子を見ていた全員が、近寄ってくる神官の姿を見て渋い顔をした。


「また、エライのが来たな……」


 ヤスナガのあきれ声にクオンは訝しむ。


「どんな人ですか? 」

「黒人の男だ。やたらカラフルな毛服スーツを着ている」

「……なんですかそれ? 」


 ヤスナガの言葉に怪訝そうなクオン。

 マダラも険しい顔で体を外に出して外の男の様子を見る。


「まるでサプールだな」

「サプール? 」


 聞いたことも無い言葉に訝しむクオン。


「コンゴって国に居るファッションに命を賭けている男たちの尊称だ。世界一オシャレな男たちとして現地で尊敬されているが……」

「その人がこちらに来てるんですか? 」

「そんなはずは無いんだが……」


 困り顔のマダラ。


「……あんなカラフルな毛服スーツは始めて見るな。本当に神官か?」


 イッペイが首を傾げる。

 すると窓から神官の証ともいえる律法魔神ネールの印章が入ったメダルが出される。

 この印章は首から下げるペンダント状になっており、神官たちの身分証明にもなっている。


「じっくり確かめるといい! 」


 戸口で若い男の声が聞こえる。

 夜中だというのにやたら陽気な声である。

 窓に差し出された神官のメダルをヤスナガが確かめる。


「……どうも高位の神官のようだね」

「わかりますか? 」


 マダラが不思議そうに呟く。


「どうやら神聖王国の高位の神官だね。聞いた事無い国だけど」

「神聖王国ですか? 」


 ヤスナガの言葉に不思議がるクオン。

 怪訝そうにクオンの心にマダラが尋ねる。


(神聖王国って何だ?)

(神官が治める国のことです)


 マダラの疑問にクオンが答える。

 神聖王国とは神官が治める国である。


 一番有名なのはネール大神宮だ。

 かの国は律法魔神ネールの直系の血を引くネフィア教皇家が治めている。

 ネール教皇家はイセリア唯一の神種ネフィアの一族としても有名である。


 クオンはそのまま心の中でマダラと会話する。


(と言うか、直接心に話しかけるなんて出来たんですか?)

(俺も知らんかった。小声で話そうとしたら出来た……嫌か?)

(全然大丈夫です。むしろなるべくそうやって話してください)

 

 いきなり開花?したマダラの能力に不思議がるクオンだが、元々、見た姿を共有することが出来たのでおかしなことではないと納得する。


 それよりも重要な現れた二人について考える。


「……怪しいですね。聞いた事無い国に見た事もない恰好の神官」

「……怪しすぎるな」

「……もう断りましょう」


 三人が口ぐちに怪しむ。

 するとマダラが声を上げた。


「その前にエルミング経典のタルーア神について聞いてみよう」


 マダラの言葉にきょとんとするヤスナガ。


「タルーアですか? 」

「あそこは民間伝承と経典で食い違いがあるんだろ? 本物だったら間違えない」

「なるほど」


 ヤスナガも納得する。

 タルーア神については神官も良く間違える事が多いので、民間伝承の誤解が常識になっている。

 ヤスナガは尋ねてみる。


「エルミング経典におけるタルーア神はわかるか? 」

「タルーア神は天馬の守り神だ! 嵐猿の神だと言われているがイセル様のエギルの実を食べた罰で猿の姿にされているだけだ! 」

「……間違いないようじゃな」


 ヤスナガが唸る。

 エルミング経典は神官とちゃんとした教育を受けた者しか知らないし、知っていても忘れている神官も多い。


「クオン君……」


 不安そうにクオンを見るセツナ。


「神官なのに間違えてますよ? 絶対に悪い人です」

「お前は今から徹夜で写経しろ」

「なんでですかぁっ!!! 」


 クオンを羽交い締めにしながら号泣するセツナ。


「間違いはなさそうじゃな」

「ええ」


 ヤスナガの言葉にクオンは同意する。

 すると、外から男の声が聞こえた。


「おーい! 大丈夫か! 」


 外のカラフルな男が不安そうに叫んでいる。

 ヤスナガが決断する。


「……まあいい。とりあえず中に入れて話してみよう」

「わかりました」


 そう言ってイッペイが戸を開けた。


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