第26話 魔人の『服』
男たちが答えの出ないことを考えていると、障子がすっと開いて女中のメイカが現れた。
「奇妙な女が来ております」
居間に緊張が走る。
真夜中に来る奇妙な女。
いかにも怪しげである。
例によってセツナ以外は中腰になり、警戒態勢を取る。
ヤスナガが慎重に尋ねる。
「どういう女だ? 」
「痴女が一晩泊めて欲しいと言ってきております」
ドテン!
たちまち居間から緊張がなくなる。
立ち上がりかけた全員が思わず転ぶ。
「……痴女だと? 」
訝しげにヤスナガが問う。
「はい。見るからに変態としか思えないような女が門前に居ます」
「……どんな女なんだ? 」
訝しげに問うイッペイに対してゆっくりと言葉を選ぶ女中のメイカ。
「肌は白く髪は金色の東の大陸の女で物凄い美女です。胸はセツナ様ほどですが乳輪は綺麗なピンク色をしていますし、下の毛はありません」
「何でそんなところまでわかるの? 」
「ほとんど裸に近い服ですので」
シーン……
居間に静かな静寂が支配する。
亡霊のマダラが気合を入れて立ち上がった!
「行くぞお前たち! 」
「「おう! 」」
パシ♪
ドタドタドタ!
亡霊マダラの号令でクオンとイッペイが立ち上がったが、クオンだけがセツナに足を掴まれてその場でジタバタした。
怨み声でセツナに尋ねるクオン。
「……なぜ僕の脚を掴む? 」
「浮気はダメです」
必死で振りほどこうとするクオンだが離せる様子はない。
ヤスナガはあきれ顔になる。
「クオン諦めろ。セツナの怪力に太刀打ちできんだろ? 」
「男には諦めてはいけない時があります! 」
尚も必死にふりほどこうとするがセツナは足を掴むというより抱きしめているので全く振りほどけない。
セツナは白蛇の貴種なので、雑種のクオンには太刀打ちできない怪力を誇る。
クオンは何とか誤魔化そうとセツナに話しかける。
「セツナよ……お前はおれにとっての一番だ。浮気なんてしないよ」
「セツナはお馬鹿ですが、今日は決して騙されません」
妙なところで勘は鋭いセツナだった。
諦め顔でクオンは力を緩める。
「わかった。行かないから離してくれ」
「いいでしょう」
ようやく離してくれるセツナ。
その瞬間にクオンはにやりと笑った!
「と見せかけて! 」
パシ♪
ドタ!
「・・・・・・・・・・・・」
隙をついて逃げだそうとしたクオンだがセツナに完全に読まれていた。
「昔、私に嘘ついたときと同じ顔してたから、すぐにわかりました」
「……その学習能力を別の方向に生かしてくれないか? 」
「クオン君の事以上に大切な事が私にあると思いますか? 」
にこにこと笑いながらクオンの足をがっちりと極めるセツナ。
だが、ヤスナガが苦笑してたしなめる。
「セツナ。お前も一緒に行きなさい」
「嫌です」
「山賊に襲われて身ぐるみはがされたのかもしれん。もしそうだったら可哀そうだから助けてやりなさい」
「……はぁい」
ヤスナガの助け舟にしぶしぶセツナが手を離す。
と、そこにメイカが割って入ってきた。
「あのう……恐らく違うと思いますよ」
「……なぜそう言える? 」
訝しげにヤスナガが問う。
「明らかに脱ぎやすく作られた服ですから。見て頂ければわかると思います」
「……クオン」
「ええ」
セツナを除く全員に緊張が走る。
本物の痴女なら単なる色狂いなので何の問題もない。
だが、このイセリアに置いて脱ぎやすい服とは痴女の服のことではない。
変身しやすい服なのだ。
きょとんとするセツナ。
「どうしたんですかクオン君」
「変身型の可能性が高いからだよ。何で同じ変身型のお前がわからない」
変身型とは生命神アミの系統で体を変化させるタイプの魔人である。
ヤスナガの白蛇は元より、巨人や怪物に変化するだけでなく、体を鋼鉄にしたりするタイプで肉弾戦に強い。
変身型魔人の特徴として西は鬼型、東は巨人型、島国は龍型が多い。
この八百万島も九頭竜の統べる島であったし、東はギガスやムスペルなどの巨人タイプが多い。
この変身型の顕著な服として着物がある。
前を合わせるだけで着られる着物は変身型魔人の服である。
それに対して魔法型魔人は毛服を着る。
こちらはズボンとシャツといった組み合わせで変身する必要が無いのと、身体が弱いのでより動きやすいズボンが使われている。
「何で? 服は普通にみんな自由に着てますよ?」
セツナが不思議そうに尋ねる。
八百万島は九頭竜王が長年治めているので魔法型魔人でも着物を付けることが多い。
また、変身型魔人でもあまり戦う必要が無い人や、あまりサイズが変わらない鬼型は毛服(洋服)を着ているので一概に言えない。
「猫神の服みても分かるように東は魔法型の魔人が治めている国が多いんだ。だから、毛服を着ている人が多い」
それでも着物を着るのは変身する必要性があるということだ。
「気をつけねばならんな」
そう言ってヤスナガが常備している槍を持つ。
「行くか」
「ええ」
四人で玄関に向かった。
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