第48話 子孫はまとも


 そして千年後


 クズリュウ=ユウエンは朝餉を食べると、すぐに宮殿の方へと向かった。

 ある人物に会うためである。


「おひさしゅうございます。ウィーウィル=ロッキュー様」

「おお、ユウエン殿。お久しぶりでございます! 」


 浅黒い肌に大神官の法衣を着た壮年の男が居た。

 

 彼こそが創世大魔王クオンに仕えた大神官イッキューの子孫である。


 彼は大魔王の覇業の後に大神宮の神官となり、このヤオヨロズ島を導いたのだ。

 ユウエンはロッキューと他愛もない世間話をするが、ふとあることを聞いた。


「おお、そう言えば一つ気になることがありまして……」

「ほう? ユウエン殿が気にするとはどのようなことですか? 」


 そう言ってきらりと白い歯を見せて笑うロッキュー。


(夢に出てきたイッキューと同じ笑い方だな)


 思わず笑ってしまうユウエン。


「一つ尋ねたいのですが……始祖クオンに仕えたイッキュー様はどのようなお方だったのですか? 」

「……はて? 急にどうされたのですか? 」


 不思議そうなロッキュー。


 イッキューに関しては様々な伝説が流布されている。

 どれも徳の高い神官を思わせる立派な人物像だ。


「いえ、あれだけ徳の高い方にしては女性関係についてだけは伝説がありませんでしたので、どんな人柄だったのかな?っと思いまして」


ぴしぃっ!


 一瞬で体が固まるロッキュー。

 明らかに聞いてはならんことを聞いた感じだ。


「あ~……えーとですな……」


 冷や汗だらだらの状態でしどろもどろになる神官。


 この世界では神官は普通に結婚する。

 だから、別に恋愛伝説があってもおかしくないのだ。

 それなのに、この凍り付きようは聞いてほしくないところであるのだろう。


 その様子を見てくすくす笑ったユウエンだが、これ以上は話が進まない気がしたので説明することにした。


「実はですな……」


 そう言って夢の内容を説明するユウエン。

 夢の内容を進めると同時にどんどんと顔が青くなるロッキュー。


(こりゃ完全にクロだな……)


 どうやら夢で見たイッキューは間違いなく本物のようだ。

 なぜなら……


「ですので


 それを聞いて完全に諦め顔になるロッキュー。

 どうやらこれ以上はごまかせないと覚悟を決めたようだ。


「……わかりもうした……

「ありがとうございます」


 お礼を言うユウエン。


 イッキューは千年前の人物なのに、その人と会う約束とはどういう意味か?


 それは後々にわかることである。


「その代りに今日の歌会はわたくしも参加しましょう」

「おお! 出ていただけるのですね! 」


 先ほどと打って変わって嬉しそうになるロッキュー。

 前々から打診しており、出てほしくて仕方なかったのだ。


「では後程よろしくお願いいたします! 」

「こちらこそ」


 そう言って別れる二人。

 別れたあと、部屋に戻ってユウエンは一人呟いた。


「歌会……めんどくさいなぁ……」


 会わせてもらうためとはいえ、かなりめんどくさい行事である。

 いつもは断っていたのだが、仕方なく受けることになったのだ。


「これも付き合い。仕方ないか……」


 そう呟いて歌会まで一眠りすることに決めたユウエンだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大魔王クオンと英霊のマダラ 剣乃 和也 @asayan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ