概要
近くて遠い、神々の市。
冬の始まりまで眠りつづける宿命を持つ〈山の民〉。朝一番に家族で出掛けるはずの〈衾雪の市〉を楽しみにするあまり、末娘の凜は夜のあいだに目を覚ましてしまう。不思議な光に誘われるようにして彼女が辿り着いたのは、神々や精霊のために立つ〈細雪の市〉で――。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!異界に踏み入れるということ、白く凍った幻想の世界の物語
ある時、些細なことから主人公が異界へ足を踏み入れる、そんな物語があります。
それは純文学からエンターテインメントまで様々な作品で使用されたある種の『王道』と言える骨子でしょう。
『唇と雪灯籠』はその王道である『異界へ足を踏み入れ話』でありながらも、小説という媒体であるが故の文章表現により、独自の世界であるその『異界』という存在自体を描いた作品といえます。
ある夜に予定よりも早く目覚めてしまった凜は自らの住む場所ではない〈細雪の市〉へと辿り着きます。
そこは異界であり、そこから自らの住む場所へ戻る際に白魔という雪の怪物に家族を襲われてしまいます。
そして家族を元に戻すために凜は神々…続きを読む - ★★★ Excellent!!!雪と怪奇に満ちた、だが暖かな物語
人ならざる者たちが集う、不可思議な市とそこに迷い込んだ少女を題材とするジャパネスク・ファンタジー。
雪と氷と山をイメージして書かれたという作品ながら、氷結した家族を救うべく幼い少女が奔走するさまはハラハラドキドキ。え、この状況どうすんの? とついつい主人公・凜を心配してしまう。
そして、なんの力もない少女が、みずからの思いだけを頼りに、知り合った人ならざる者たちすべての力を借りて、ひとかどの優しさを持ちながら厳しくも圧倒的な存在に人の理を示してみせる。
結末は、まさに大団円。
雪と氷と吹きすさぶ風といった、冷たい世界の出来事ながら春のうららかさを思わせる暖かな読後感がある。
ただ、…続きを読む