第18回
「話を聞いたか? 篝から、話を聞いたのか?」
「聞けたよ。偏屈だなんて言うからどんな人かと思ったけど、優しかった」
再び霊獣に跨り、〈細雪の市〉を目指して雪山を突き進んでいる。多少なり慣れてきたのか、走りながらの会話も可能になった。こうしていると、息の合った相方のようである。
「篝がなにを考えているのか、我らには分からん。奴の内面が理解できぬ」
「そうかな。私はなんとなく分かるけど」
知らぬ存ぜぬがこの霊獣の口癖なのかもしれないと思いつつも、凜はそう答え、
「あなたにも友達がいるでしょう? いつも一緒にいる二匹とか」
「我らは友ではない。我らは三体でひとつなのだ」
「そうなの? よく分からないけど、じゃあ――雪那さんは?」
「雪那も友ではない。雪那も友と思ってはおるまい」
「思ってくれてると思うけど――そういえばあなた、雪那さんを怖いって言ってたよね」
「確かにそう言った。そう言った。雪那は恐ろしいぞ、人の子よ」
「厳しい人だけど、怖くはないな。私を助けてくれているし」
「人の子よ。おまえがなにを考えているのか、我らには分からん」
丘を登り切って下りへと転じたとき、眼前を小さな影が横切った。視線が釘付けになる。凜は大慌てで霊獣の背を叩き、
「あれを追いかけて!」
「なんと言った? 市へ戻るのではないのか?」
「変更。あの子――私の護り火を分けてあげた子かもしれないの。火さえ戻れば、ぜんぶ元どおりになる。ほら、早く」
強い口調で急かしたが、霊獣はいっこうに従ってくれなかった。雪那への報告を優先したがっている様子だ。
「雪那さんは怒らないよ。怖くないもの。今、あの子を見失うわけにはいかないの」
「人の子よ。我らはおまえの策に賛同しない。おまえは雪那の指示を仰ぐべきだ」
問答のあいだにも、影はするすると動いて視界から消え失せんとしていた。行く先には雑木林が広がっている。あそこに飛び込まれたら、もはや見つけようがない。
「ああ、もう」
叫んで、霊獣から飛び降りた。雪を蹴って駆け出す。
「待って。蝋燭の火を――蝋燭の火を分けてほしいの」
人の子よ、人の子よ、と霊獣が背後から呼んでいる。振り返って声を張った。
「あなただけで行って。雪那さんに知らせて」
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