第14回

「淋しかった?」

「はい。ずっと独りぼっちでいて、誰とも遊べなかったからだと。反省した白魔は、お坊さんに供養してもらって、きちんと天に昇っていくんです」

「さすがは人間の作り話だな。奴には淋しさも虚しさもない。あるのは殺意だけだ」

 と、雪那。吐き捨てるような物言いだった。

「おまえも襲われてみて分かったろう。奴はただ、人間に憑りついては殺すだけの存在だ。そこになんの道理もない――我らの面汚しだ」

「ところで雪那よ、どこへ運ぶのだ。人の子をどこへ連れてゆくのだ」

 話が一段落したと見做したのか、あるいは雪那を宥めんとしたのか、霊獣がその大振りなかしらを持ち上げながら、ゆったりと訊ねた。喋り方同様に歩みも悠然として、まるで屋形船にでも乗っているかに思える。

「ひとまずは篝のもとだろうな。この娘の護り火のことも、奴ならば知っているかもしれない」

「あやつはあやつで、偏屈だぞ」

「仕方があるまい。炎に関しては、私はなんの知恵も持たない。おまえは娘と行き、篝に引き合わせろ。私は一度、市へと戻る」

 人の子よ、と霊獣が凜に呼びかける。

「おまえを今から、篝のもとへ連れていく。護り火について訊ねろ。おまえ自身で訊ねるのだ」

「その人も神様?」

「我らは知らぬ。しかし人ではない。おまえのような人の子ではない。長く生きすぎた知恵者よ」

 霊獣が進行方向を変え、思いがけない勢いで疾走を始めた。雪那もまた凜たちに背を向け、冬景色の中を歩み出す。共闘を約束したのだからいっときの別れには違いなかったが、あの強く頼もしい人の傍から離れるのだと思うと、切なさに胸が詰まった。

「雪那さん」

 声が届いたのか、あるいはなにか気になりでもしたのか、ほんの一瞬、雪那が肩越しに振り返った。嬉しくて伸びあがり、手を振ろうとしたが、彼女はすぐに視線を前方に返して、歩みを再開してしまった。

「掴まっていろ。しっかりと掴まっていろ」

 凜はゆっくり頭を下げた。毛皮に顔を埋め、身を切る風を避けんとした。

 霊獣が走る、走る――。雪を蹴散らしながら、一心に、迷いなく。上りも下りも同等の速さで、山中を猛進する。振り落とさぬよう気遣ってくれているのだろうが、それでも振動は凄まじい。

 知恵者の篝なる人物に、意識を巡らせる余裕はなかった。ただ荒馬を乗りこなすような心地で、凜は霊獣の背にしがみついていた。

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