キャラメイクに失敗して幼女になった僕は、お願いスキルでいつの間にか最凶ギルドのマスターに!?
向原 行人
第1章 フォーチュン・オンライン
第1話 キャラメイク失敗!?
「ありがとうございましたー!」
綺麗な店員さんに笑顔で見送られながら、近所のゲームショップを出る。
やってしまった。
僕の鞄の中にあるのは、二週間程前に発売された「フォーチュン・オンライン」という、ゲームの世界をリアルに体験出来るというVRM……なんとかっていうタイプのゲームだ。
クラスの皆が、「面白すぎてヤバい」とか、「マジで受験勉強が止まる」、「睡眠時間がごっそり削られる」とかって言っているのが聞こえていたのに、受験勉強の息抜きと、ボッチの僕が会話に入れるようになるかもと、つい買ってしまった。
「ただいまー」
「お兄ちゃん、お帰りー! ねぇねぇ、冷蔵庫にお母さんの手作りプリンがあるよー!」
「ありがと、渚。少し勉強した後、休憩する時に食べるね」
「へぇー、プリンより勉強なんだー。高校受験って大変なの?」
「まぁね。渚も、中学生になればわかるよ」
「えー、やだー。わかりたくなーい」
帰宅早々、両手にプリンとスプーンを持ったまま抱きついてきた妹の頭を撫でると、僕はそのまま二階へ。
小学五年生にしては、見た目も中身も幼い渚は、僕が真っ直ぐ自室へ向かったのが面白くないのか、少し不満そうだ。
だけど、今の僕にはプリンごときに気を取られる訳にはいかない。
一刻も早く、鞄の中のゲームを……じゃなくて、勉強をしなくては。
まだ一学期とはいえ、高校受験まで一年を切っているのだから。
……
「えーっと、このヘルメットみたいなのを被れば良いのかな?」
教科書――もとい説明書を読みながら、電源を繋いだヘルメットを被る。
後は、ベッドに寝転んで側頭部の電源ボタンを長押しすればゲームの世界へ入れるそうで、最初にキャラメイクを行って、以降はゲーム内のチュートリアルで説明してもらえるらしい。
え、勉強? まず息抜きが終わってからするという事で。リラックスしてから勉強を始めた方が、身に付きそうだしね。
精一杯の言い訳を想い浮かべながら、僕は電源ボタンを押す。
「――ッ! 何これ、凄いっ!」
一瞬視界が真っ暗になったかと思うと、大理石か何かで出来た、大きな部屋の中に居た。
周囲を見渡せば広い部屋に何かの石像が並べられ、上を見れば、遥か高くに天井が見える。
そして何より、もの凄くリアルだ。とてもゲームの中だとは思えない。
まるで田舎から初めて都会へ出て来た人みたいに、キョロキョロしながら歩いていると、
「はじめまして! フォーチュン・オンラインの世界へようこそ」
突然、綺麗な女の人が話しかけてきた。
「私は、女神ロジェニツァ。貴方に、この世界の生を授けましょう」
サラサラの金髪に、整った綺麗な顔と、澄んだ鈴の様な声。おまけに抜群のプロポーションで、如何にも女神様って感じの女性だ。
これがゲームの中でなければ、自分で女神とか言っちゃう人からは絶対に逃げるけど、おそらくこれが最初のキャラメイクとか呼ばれるものなのだろう。
「では、先ず貴方のお名前を教えてください」
「えーっと、花村……じゃなくて、『ツバサ』です」
危ない危ない。あまりにリアル過ぎて、一瞬普通に本名を名乗りかけてしまった。
あくまで息抜きとして少しやってみるだけだから、キャラメイクに時間を掛けて拘るつもりはないけれど、流石にオンラインゲームを本名でプレイするのはマズイと思う。
とはいえ、ツバサ――翼も本名だけどさ。まぁよくある名前だし、苗字は出て無いから大丈夫だろう。
「わかりました。貴方の名前は、『ツバサ』ですね。それでは……お兄ちゃん!」
「えっ!?」
「ねぇ、起きてよぉ。お兄ちゃんってば!」
目の前の綺麗な女神――金髪巨乳の綺麗なお姉さんが、僕の事をお兄ちゃんと呼び、身体を揺すってくる。
これは一体どういうストーリーなのかと思っていたら、突然女神様の姿が、黒髪を二つ括りにした貧乳少女に変わってしまった。
顔は可愛らしいけれど、二十歳過ぎのムチムチお姉さんが、小学三年生くらいのお子ちゃまになってしまうなんて。あの、大きな胸はどこへ行ったの!?
「女神様!? どうして!?」
「お兄ちゃん? いくら渚が可愛いからって、女神様だなんて。もう、お兄ちゃんったら」
心の叫びが口から飛び出した所で我に返ると、僕に跨った渚が両手で頬を押さえながら、クネクネと身体を動かしている。一体、何の生態模写をしているのだろうか。
「渚……って、あれ? ヘルメットは!?」
「あ、これ? そうそう、お兄ちゃん。どうしてヘルメットなんて被って寝てたの? 何度呼んでも起きないのに、変なヘルメットを外したらすぐ起きたし」
「いや、これは安眠効果があるというか、勉強する前の準備というか……って、それよりどうしていきなり起こしにきたの? お兄ちゃんが勉強中の時は、勝手に部屋へ入っちゃダメだって言っているよね?」
「だって、町内会の集金とかで、お隣のオバちゃんが来てるんだもん」
「集金? 何だろ。ちょっと待ってて」
慌てて玄関へ行くと、渚の言う通りお隣さんが待って居た。
一先ず話を聞いて、母さんが使っているリビングの棚を漁ると、お隣さんの言っていた額とピッタリ合う硬貨が置かれている。
それを手渡して領収書を貰い、さぁゲームに戻ろうとした所で、
「ところで、翼君。もう中学三年生なんですって? 時間が経つのは早いわねー。うちの姪が今年から高校生なんだけど、やっぱり受験勉強が大変だったみたいでね……」
あぁぁぁ、しまった! このお隣さんは、めちゃくちゃ話が長い人だった!
強引に話を打ち切ろうとしても、次から次へと僕にとってはどうでも良い話題に変わり、ただただ興味の湧かない話が繰り返される。早くゲームに戻りたいのにっ!
「……じゃあ、そういう事だから。花村さんに――お母さんによろしく言っておいてねー」
ようやく玄関の扉が閉まった。リビングの時計を見ると、お隣さんは一人で三十分近く喋り続けていた事になる。
体感的にはもっと長く感じたけれど。
「あー、やっとゲームに戻れる」
げんなりしながら自分の部屋に戻ると、
「あ、お兄ちゃん。相変わらず、長かったねー」
僕のベッドでゴロゴロしていた渚が、身体を起こす。
「ねー、お兄ちゃん。トランプしよー」
「いや、しないってば。お兄ちゃんは、勉強しないといけないんだから」
「でも、さっきは寝てたよ?」
「あれは、ちょっと休憩してただけなの」
「えー、お兄ちゃん。遊ぼうよー」
ベッドから降りた渚が、僕に抱きついてくる。両手が空いているだけに、帰宅直後よりも密着しているけれど、小学五年生なのに女性らしい柔らかな膨らみが全く感じられない。
どうせなら、ゲームの中の女神様に抱きつかれたいな。
そんな事を思いながら、渚に抱きつかれたまま部屋の外へ行き、
「ちょ、やっ……お兄ちゃん! それ反則っ! やめてっ! んっ……そんな所を触るのはずるいよー!」
僕に両腕でくっついたままで、身体がガラ空きの渚の脇や腰をくすぐり倒す。
力の抜けた渚を、ゆっくりと廊下に座らせ、
「ごめんね。勉強が終わったら、ちゃんと遊んであげるからさ」
「もー! 絶対だからねー!」
口を尖らせる渚をそのままに、部屋へと戻る。
今回は念のため扉に鍵を掛けてヘルメットを被ると、視界が一瞬真っ暗になり……僕は見知らぬ建物の前に立って居た。
「あ、あれ? もしかして時間が経ち過ぎて、キャラメイクが終わっちゃった?」
先程の大きな部屋は消え、澄み渡る青空と、遠くに見える緑の山に囲まれ、周囲には小さな家が立ち並ぶ。
バグなのか仕様なのか、僕はキャラメイクを飛ばして、見知らぬ町に飛ばされてしまっていた。
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