第5章 忍び寄る影

第37話 常闇の街

 GvGからのレイドバトルという名の、湖でクリスと水の掛けっこで遊んだ後、「月曜日の放課後に深淵の街で会おう」という約束をしてログアウトしたのが日曜日の話。

 翌日に学校が終わって、クリスとの約束通り深淵の街へやって来たら、


「ツバサーっ! 一緒に遊ぼーっ!」


 見た事の無い女の子が随分とフレンドリーに話しかけてきた。

 大きなリボンで結い、サイドテールにした金色の髪の毛はとてもサラサラで、大きな赤い瞳でジッと僕を見つめている。

 胸は小さい……というか、殆ど無いけど、僕より背が高くて、何より短いプリーツスカートから伸びる細い脚がとても綺麗な女の子だ。

 そんな可愛らしい美少女が僕に向かって微笑み、とびつくようにして抱きついてきた。


「えぇっ!? あ、あの……どちら様ですか?」

「ツバサ、それは酷い。我の事をたった一日で忘れたのか!?」

「……えぇっ!? ちょ、ちょっと待って。クリス……なの!?」

「そうだよっ! 昨日、ツバサが我を男の子だと思っていたと言ったから、必死で女の子らしくしたというのに」

「ご、ごめん。見た目も全然違うし、話し方まで変わっていたから、分からなかったんだよ」


 あの全身黒づくめで、前髪で目を隠した上に眼帯までしていたクリスが、ここまで変わったら、流石に気付かないよっ!


「むぅ……我にこのような格好は、やはり似合わぬか?」

「まさか! めちゃくちゃ似合っているし、物凄く可愛いよ!」

「ふふっ。世辞だとしても嬉しいものだな」


 クリスが嬉しそうに照れているけれど、まだ練習中なのか、所々話し方がおかしくなる。

 まぁそんなおかしな話し方も含めて、可愛く見えるけどね。


「さて、今日は何して遊ぶ? 昨日の一件で、ツバサは可愛いだけでなく、かなりの手練れだと分かったから、常闇の街にでも行ってみる?」

「手練れ……っていうのは分かんないけど、それより常闇の街って?」

「光りが無く、常に夜となっている街がある。そこにしか売っていない可愛い服や、アクセサリーなんかもある。ちなみに、我が気に入っている眼帯はその街で買ったものだ」

「へぇー。常に夜だなんて、面白いね。じゃあ、行ってみよう!」

「うむ。では行くか!」


 クリスとパーティを組んだ後、いつもの様に一瞬で見知らぬ場所へ視界が変わる。

 クリスの言っていた通り、空には星が瞬き、周囲には不気味な樹が沢山生えていて、僕たちに向かって……


「って、ちょっと待って! クリス! 樹が動いているんだけど!」

「あぁ。アレはモンスターだ。ツバサなら問題ないと思うが、邪魔なので護衛を呼んでおこう。サモン――オルトロスッ!」


 クリスが召喚した双頭犬が、僕たちを囲む動く木々を薙ぎ倒していく。

 すると、


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル76です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 五体くらいの木のモンスターを倒し、レベルが上がった。


「いやいやいやいや、どういう事!? レベル上がり過ぎじゃない!? 一気に、16も上がったんだけどっ!」

「いや、それは違う。さっきパーティを組んだ時点でツバサはレベル75だったから、1しか上がっていないぞ」

「あ、じゃあ正しいのか……って正しくないよっ! 僕は昨日の時点でレベル60だったんだけど」

「それは、レイドバトル前の事ではないか? 我の召喚したモンスターを何匹か倒したのだろう? あれは皆、高レベルのモンスターだぞ?」


 あー、クリスが言っているのは、昨日のカマとか持ってたモンスターの事かな?

 なるほど。レイドバトルは、モンスターが弱いのに、沢山経験値が貰えるボーナスステージって事か。

 ちなみに、そのレイドバトルだけど、僕はてっきりクリスが戦う事になってしまうと思っていたんだけど、どうやら違うらしい。

 レイドバトルは、クリスが召喚したモンスターとGvGの優勝ギルドメンバーが戦うので、クリスが傷つく訳じゃないみたいだ。

 僕の盛大な早とちりで大勢の人を巻き込んでしまったのは、本当に申し訳ないと思う。


「……そうだ。せっかくだから、皆にお礼のプレゼントを買おうかな」

「むぅ……なるほど。プレゼントと言えば……呪いの人形だとか、突然笑い出すドクロとか?」

「いやそれ、怖いから。もっと普通の、普通のプレゼントだよ」

「普通の……ポルターガイストの瓶詰とか?」

「ちょっと何言ってるか分かんないよっ! さっき言っていたアクセサリーとか、あとはクッキーとかかな」


 今着ている服は凄く可愛いのに、お土産のセンスが意味不明だよっ!

 とりあえず、アオイとミユさんにアクセサリーを。オジサンたちには、クッキーとかチョコなんかが良いんじゃないかな。


「なるほど。そういうのならば、こっちだ。ついて来てくれ」


 クリスに常闇の街を案内してもらう事にした。

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