第38話 迷子

「こっちのお店が雑貨屋さんだ。ここなら、何かしらツバサの探している物が見つかるのではないかと思う」

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと見てみようかな」

「うむ。我は店の外で待っているから、ゆっくり見て来ると良いだろう」


 初めて来た常闇の街の街でお土産探しをしているのだが、クリスはお店に入らず、外で待っていると。

 こういうのは、友達と一緒に見て回るのが醍醐味な気がするんだけど。


「クリスは一緒に入らないの?」

「ツバサはいろいろな店を回るのだろう? だったら、我がここに残った方が良いだろう。店を出た直後に襲われる事を避けるためにも」

「え? 襲われるって?」


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル77です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 お店の前でクリスト喋っているだけで、突然僕のレベルが上がった。

 何にもしていないし、しかも街の中にいるというのに、何故なのだろうか。


「……って、ちょっと待って。さっきからクリスのオルトロスが見当たらないけど、何をしているの?」

「ん? モンスターが店の入口に溜まらないように、ひたすら狩っている所だが?」

「ちょっと待って! ここ、街の中だよね!? 街の中なのに、モンスターが出るの!?」

「そうだが? 言ってなかったか? ここ常闇の街は、別名が死者の街だ。店の中までは入って来ないが、街中でも普通にモンスターが現れるぞ」


 そんなの聞いてないよっ!

 というか、店員さんは大丈夫なの? NPCだから、平気なの?

 見た目には、普通のプレイヤーとNPCの差って、頭上の名前の有無くらいしかないから、モンスターの近くで普通に商売している人達に違和感しかないんだけど。

 とりあえず、大急ぎで可愛らしい銀色の腕輪を三つ買った。


「クリス、お待たせっ! はい、プレゼント」

「……え? 我に……プレゼント!? ツバサはお土産を買いに来たのでは?」

「そうだけど、クリスは普段いっぱい遊んでもらっているしね。あと、この街も案内してくれたし。あ、でも、あとお菓子屋さんみたいなのがあれば、案内して欲しいかも」

「……ありがとうっ! 大切にするっ! じゃあ、次はあっちのお店だ!」


 早速左腕に腕輪を身に着けたクリスが僕の手を引き、次のお店へと案内してくれる。

 昨日のレイドバトルでのMVP獲得報酬とかで、勝手に増えていた所持金を使い、百個くらいの常闇クッキーを購入した後は、綺麗な景色の場所があるからと、クリスに連れられて街の端へ。

 そこには広い湖が広がっていて、空に輝く星が水面に映り、とても幻想的な場所になっていた。


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル78です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 ……ここでもモンスターが出るので、それさえなければ凄く良い場所だと思うんだけどね。

 オルトロスが倒してくれていて、何もしていない僕が言うのもなんだけどさ。

 暫くクリスとお喋りをしていると、


「あ……もうっ! ……すまない。どうやら我は帰らなければならないみたいだ」

「そっか。仕方ないね。でも、また明日遊ぼうね」

「もちろんっ! じゃあ、また明日っ!」


 突然クリスが帰ってしまった。

 これは、昨日のレイドバトルの後に聞いたんだけど、クリスがFOのイベントを手伝っているらしく、プレイヤーの誰かがイベントを進めて条件を満たすと、どうしても行かなければならないらしい。

 大変だなと思いながら、僕も一度帰ろうと思い……


「って、僕も一緒に連れて行ってもらえば良かった!」


 静かな湖に僕の声が響き渡る。


「えぇー。けど、ここも街の中のはずだから、冒険者ギルドまで、そんなに離れてないよね? きっと戻れるよね?」


 ちょっと泣きそうになりながら、来た道を引き返す。

 すると、周囲の不気味な木々がゆっくりと近寄って来る。


「あ、そっか。今まではクリスのオルトロスがモンスターを倒してくれていたから……た、倒せるかな?」


 旅人の短剣を装備して、思いっきり突いてみると、抵抗もなく消えてしまった。

 どうやら、見た目とは違い、弱いモンスターらしい。

 暫くモンスターを倒しながら、冒険者ギルドを目指して歩き、


「こ、ここはどこなのーっ!?」


 街の中で思いっきり迷子になってしまった。

 仕方なく、行く先も定まらないまま暫く歩いていると、


「あ! やっと建物があった!」


 レベル81になった所で、少し小さめの家が視界に映った。

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