第39話 女神ロジェニツァ
「すみません、どなたか居ませんかー?」
形は家だけど、小さくて、扉も無いという変わった建物に入ると、突然風景が切り替わる。
クリスがどこかへ連れて行ってくれる時のスキルみたいな感じだったけど、一体ここはどこだろうか。
先程までの小さな建物とは大きく違って、大理石か何かで出来た、大きな部屋の中に居る。
周囲を見渡してみると、広い部屋に何かの石像が並べられているし、天井は遥か上に……って、ちょっと待った。僕、ここに来た事がある気がする。
どこだっけ……と必死に思い出しながら歩いていると、
「あら。貴方は……ツバサね。お久しぶり。私の事は覚えているかしら?」
真っ白なドレスを着た金髪のお姉さんが現れた。
凄く綺麗な顔と声のお姉さんは、僕に久しぶりって言ってきたけど、こんな美人な女性と知り合いな訳が……ううん、違う。
この人も会った事がある気がする。
まるで女神様みたいに綺麗なお姉さんの事を忘れてしまうなんて……って、そう、女神だ。
この人は女神様なんだっ!
「あの、女神様……ですか?」
「そう、正解よ。私は、女神ロジェニツァ。チュートリアル以来ね」
「やっぱり! ……って、チュートリアル?」
「あら、忘れちゃった? この世界の基本的なルールや、遊び方について教えてあげたでしょ?」
あー、あれだ。
僕が初めてプレイした時、お隣さんに邪魔されて、受けられなかった奴だ。
これだけ売れているゲームだし、チュートリアルもしっかりあったはずだよね。
僕は内容が分からないけどさ。
「ところで、僕は常闇の街に居たはずなのに、どうして女神様の所にへ?」
「私は出産を司る女神なの。死者の街と呼ばれる常闇の街の住人を転生させて、新たな生を与えるために居るのよ」
「転生?」
「えぇ。ちなみに、生きている人でも可能よ。通常よりも高い能力を持って、レベル1からやり直す事が出来るわよ」
あれ? この話、どこかで聞いた事がある。
……確か、コージィさんが言っていた、ネットでの噂だ。
凄いな。ネットの噂、大正解だよ。
「あの、レベル1からやり直しって、大変じゃないですか?」
「そうね。だけど、レベル90を越えると、中々レベルが上がらなくなるし、レベルアップの爽快感を味わうには良いんじゃないかしら。それと、転生して限界突破をすれば、四次職になる事が出来るわよ」
「え? 限界突破!? 四次職!?」
「あら、知らなかったの? ……って、そういえば、まだ誰一人として転生した人は居なかったわね。ここに来たのもツバサが初めてだったわ」
限界突破が何を意味するかは分からないけれど、女神様はそんな話をしちゃっても良かったのだろうか。
「さてと。それよりツバサの転生を……って、んん? ツバサ、貴方レベル81なの!? しかも二次職のダンサーで、ソロ……よく、ここまで来れたわね」
「あー、というか道に迷って辿り着いただけなんです」
「そ、そうなの? それでも、常闇の街のモンスターはかなり強いはずなんだけど……まぁいいわ。ツバサ、レベル80を超えているから、クエストさえしてしまえば三次職になれるわ。だから三次職になって、かつレベル99になったら、またここに来なさい。転生させてあげるから」
「あ、はい。それが転生の条件なんですね?」
「それが前提条件よ。本当は、更に特定のアイテムが必要なんだけど、ツバサはアイテム無しで良いわよ。……それより、常闇の街に帰してあげるから、レベルを上げていらっしゃいな。待ってるわよー」
そう言うと、あっという間に景色が変わり、金髪女神様が黒髪の女の子に変わる。
見た事が無い女の子だけど、誰だろう。街に帰してくれるって言っていたから、女神様ではないよね?
「あの、女神様……?」
「えぇっ!? わ、私が女神様っ!? な、何の事ですかっ!?」
「あ……すみません。えっと、ここは、どこですか?」
「どこ……って、冒険者ギルドですけど」
「そ、それじゃあ、空間移動サービスで旅人の街へ送ってもらえませんか?」
「はぁ。構いませんが。では、送りますね」
冒険者ギルドの受付の女の子を女神様呼ばわりしてしまい、変な空気になっちゃったよ。
女神様も、街のどこへ送るか言ってくれれば良かったのに。
一先ず、ギルドのサービスを使って、僕のホームとも言える旅人の街へと戻ってきた。
すると、夕方くらいになっていたからか、沢山人が居て、
「お、ツバサちゃんだっ! 待ってたよ。ちょっとギルドのこれからについて話があってね」
「シュタインさん。ギルドのこれからって?」
「うん。丁度、皆にも話をしていたところなんだけど、このギルドはGvGで優勝した実力のあるギルドだよね?」
「そうだね。僕もそう思う」
「そう。ギルドレベル10で、ギルドの人数としては最大手だ。だけど、もう一つのレベル10のギルド『聖母の癒し』に大きく差をつけられている事があるんだ。何だか、わかるかい?」
なんだろう。人数は僕たちのギルドも、育代さんのギルドも同じくらいだよね。
GvGでは決勝戦で当たったくらいだし、どちらも同じくらいの実力なんだと思う。
ギルドの結成は向こうの方が早いけど、それを差って呼ぶのかな?
僕が一生懸命考えていると、シュタインさんが早々に答えを口にする。
「教えてあげよう。それはね、ギルドハウスさ」
「ギルドハウス?」
「そう。僕たちは、いつも集まる時って、この冒険者ギルドの建物だよね? だけど、レベル5以上のギルドは、家を買う事が出来るんだよ。そして、そこをギルドの拠点に出来る」
「家!? 凄い! そんなのまであるんだ」
「ギルドハウスはギルドの強さの象徴でもあると同時に、傷を癒す為の宿としても使えるし、アイテム倉庫としても使える。また、植物系アイテムを栽培してレアアイテムをゲットしたりする事も出来るんだ」
「へぇー、凄い! じゃあ、僕たちも家を買いましょう!」
「よし! ツバサちゃんがそう言ってくれるのなら、問題無い! 皆っ! ツバサちゃんに最高の家をプレゼントするぞっ!」
シュタインさんの声に、集まっていたオジサンたちが大声で呼応する。
あれ? 僕にプレゼント?
少し思っていたのと違うけど、ギルドとしての家を買う事になった。
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