第40話 物件巡り

 ギルドハウスを買うと決まったら、今度はコージィさんが喋り出す。


「実は、事前に数人で下見に行っていてさ、それぞれツバサちゃんにオススメしたい物件があるんだ」

「そ、そうなんだ」

「あぁ。だから……アオイ、頼む」


 コージィさんが後ろに居るアオイに声を掛け、


「じゃあ、床にワープホールを開けたから、皆入って。もちろんツバサちゃんも」


 いつの間にか床に出現していた魔法陣に飛び込んだ。

 おそらく、これがアオイやクリスが使っている瞬間移動の魔法なのだろう。

 いつもは直接足元へ出していたと思われる魔法陣に足を踏み入れると、一瞬で景色が変わる。

 のどかな山が広がり、緩やかな緑の山にはヤギみたいなモンスターが居て、草を食んでいた。


「えっと、ここは?」

「先ず最初は、俺がオススメする深緑の街の外れにある、ロッジだ。家は少し狭いけれど、眺めは最高だし、何より空気が美味いんだ」

「へぇー。静かで良い感じだねー」

「だろう? しかも、ロッジの眺めは更に良いぜ! さぁ中へ入ろう」


 コージィさんに先導され、ロッジの中へ。

 狭いと言っていたけれど、三階建だし、林間学校で泊まった部屋に似ていて、ちょっとワクワクしてしまう。

 そして、コージィさんがオススメするテラスへ出ると、目の前に大きな湖が広がっていた。


「どうだい、ツバサちゃん。ここなら、湖で泳ぎ放題だよ!」

「凄い! 気持ち良さそう!」

「だろ? ちょっと街の中心から離れているけど、物件としては凄く良いと思うんだ」

「街の中心から……って、どれくらい離れているの?」

「え? うーん、普通に移動したら、徒歩三十分って感じかな」

「そ、それは結構遠いね」

「だけど、アオイの魔法を使えば一瞬だから! 目の前に来られるから!」


 コージィさんがアオイの魔法を推すけれど、居ない時は結構困ってしまうのではないだろうか。

 出来れば、冒険者ギルドに近い場所がありがたいんだけどね。


「ふっ、甘いなコージィ。確かに、テラスからツバサちゃんの水着姿を眺められるのは最高だ。だが、だからと言って、不便にさせてどうする」

「くっ! それは……言い返せねぇっ!」

「さぁツバサちゃん。俺がとっておきの物件を紹介するよ。アオイちゃん、お願い」


 次はシュタインさんがアオイに依頼し、再び瞬間移動の魔法陣が広がる。

 すると、今度は街の真ん中に出たみたいだけど……足元が砂というのは、どういう事なのだろうか。それに、ちょっと暑い気もする。


「驚いたかい? ここは、砂漠の真ん中にあるオアシスの街なんだよ」

「砂漠!? 凄い、そんな場所まであるんだ」

「そう。砂漠だから周囲は砂だらけだけど、この区画は高級住宅街だから心配しなくても大丈夫。それに、何と言ってもすぐ近くに冒険者ギルドがあるし、お店だって近くにあるからね」

「そうなんだ! それは良いね。……けど、ちょっと暑いかな」

「そう、そうなんだよ。だからツバサちゃん、周りを見てごらん。ここに居る人たちは、皆薄着だろ? 皆で服なんて脱いじゃおうよ!」


 そう言って、シュタインさんが重そうな鎧の装備を解除した。

 そして、促すように僕を見つめてくる。


「うーん。利便性は良くても、装備を変えないといけないくらい暑いのはちょっと……」

「ま、待って! じゃあ、家に入ってみよう。中は凄く涼しくて快適だからさ」


 そう言ってシュタインさんに案内されると、家の中は確かに涼しくて、広さも十分にあって快適だった。

 だけど、風に運ばれて付着したのか、服や靴から沢山砂が零れてくる。


「悪くはないんだけどね。やっぱり場所が大変じゃないかな。特にアオイやミユさんが」

「そうねー。髪の毛に砂がいっぱい付いちゃうし、そもそも暑いの苦手だし」

「砂漠だからかしら。魔法少女の格好が映えないのよねー」


 女性陣から不評で、シュタインさんと他数名が悔しそうに膝を着く。


「くっ……砂漠なら、ダンサーの格好でも不自然ではないのに」

「アラビアンなスケスケの服が……」

「したたり落ちるJSの汗、はりつく服……無念だ」


 よく分からない事を言っているけど、触れずにそっとしておこう。

 それから、他のオジサンたちもオススメの家を紹介すると言って、アオイの魔法でアチコチへ飛ぶ。

 海の近くにあり、壁が殆どない解放的過ぎる家だったり、ジャングルの樹の上に作られた家とか、火山が近くにある危険な家だったり。

 ……どうして、皆変わった場所の家ばかり紹介するんだろうか。

 もっと普通の避暑地みたいな場所で良いと思うんだ。

 個人的な好みだと、最初に紹介してもらった湖の傍の家が良いと思うんだけど、ちょっと遠すぎるんだよね。

 やっぱり街の中心にある家を買おうとすると、値段が高いのだろうか。


「……って、ちょっと待って。家って、きっと凄く高いよね?」

「まぁそれなりの値段はするね。それに、このギルドは人数も多いから、大きな家が必要だし」

「その家を買うお金はどうするの?」

「はっはっは。心配いらないよ、ツバサちゃん。俺たちは皆大人だからね。課金アイテムでどうにでもなるさっ!」

「あの……それなら、まだ家も決まってないし、皆で楽しく狩りをしながら資金を稼いだ方が良いんじゃないかな? 別に急がなくても良いと思うし。お金が溜まったら、また皆で考えようよ」

「そ、そうだね。ツバサちゃんがそう言うのなら……じゃあ、皆っ! 予定を変更して、今からレアドロップアイテム狙いの狩りだっ! 目指せ、ギルドハウス資金っ!」


 ギルドの皆で暫く、経験値よりもドロップアイテムが美味しい場所で狩りを行い、今日はログアウトした。

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