第2章 プレイヤーは親切な人たちばかり
第5話 ネット上の噂
「ただいまー」
「お兄ちゃん、お帰りー! 今日のおやつはヨーグルトだってー」
「ありがとう。じゃあ、また勉強の休憩の時にでも食べるね」
「えー、今日も家に帰ってすぐにお勉強なのー?」
「ごめんね。お兄ちゃん、受験生だからね」
学校から帰ると、拗ねる渚の頭を撫でつつ、すぐさま自室へ掛け込む。
昨日レベル10になった所で「おあずけ」状態となってしまい、とにかく早くプレイしたかったので、授業が終わって猛ダッシュで帰って来た。
というのも、昨晩夕食を済ませた後にちゃんと勉強して、その後に少しだけログインしようとしたら、「年齢制限モードのため午後十時以降はログイン出来ません」と表示されてしまったからだ。
キャラメイク時にプレイヤーの実年齢などを測定するらしいし、中学生だから勉強を優先しろという事だろう。
受験生に優しい仕様なのだろうけど、むしろフォーチュン・オンラインの事が気になって、今日は学校で勉強に身が入らなかったよ。
「まぁログイン出来なかった時間を使って、ネットで情報収集出来たけどねー」
独りで歌うように呟きながら、先ずは制服を脱いで、ゲームに飛び込む準備をする。
FOの事をネットに書き込む中学生が少ないからか、休み時間にスマホで攻略サイトを見ていても、年齢制限モードなんて言葉は一切見つからなかったけど、一次職の事については概ね知る事が出来た。
最初に必ず就く基本職「アドベンチャラー」というクラスから転職出来るのは、基本的に九つの一次職だ。
前衛となって敵と戦う、武器の使い手ファイターと、拳で戦うストライカーに、同じく前衛だけど、攻撃がメインではなく盾となって仲間を護るソルジャー。
中衛で敏捷性を使ったトリッキーな攻撃するシーフに、弓矢で戦うシューター。それから、歌でパーティ全体にサポートを行うバード。
後衛から強力な魔法攻撃を行うメイジや、アオイみたいに仲間を回復させるアコライト。あと、ちょっと変わったテイマーという、モンスターを仲間にして戦わせるクラス。
他にも特殊なクラスがあるらしいけど、特殊なクラスになる方法は未だネット上には無かった。
一方、一次職に関する情報で良く見かけたのが、テイマーだけは止めとけという書き込みだ。
何でも、自分の育成に加えて、使役するモンスターのレベルまで上げなければならないそうで、モンスターを使って攻撃するクラスなのに、モンスターが敵を倒した場合の経験値が、半分モンスターに入り、残りの半分だけがテイマーに入る。
つまり、経験値が半分しか入らなくなり、レベル上げに他の人の倍の時間が掛かるという事だ。
「とりあえず、前衛とシーフはパスかな。僕の運動神経だと、モンスターを攻撃したり、その攻撃を避けたり防いだりなんて出来そうにないし。弓矢も難しそうだから、一先ずバードかメイジ、アコライトのどれかだよね」
着替えを終え、部屋着になった僕はヘルメットを被ってベッドに寝転ぶ。
そのまま起動ボタンを押すと、視界が暗転し、僕は町の通りの真ん中に立って居た。
少しして、澄んだ青空とレンガ色の町並みに目が慣れて来た時、
「おぉっ! キターッ! 本物だっ!」
「マジでっ! うぉぉぉっ! すげー! あの噂は本当だったのか!」
「俺、仕事休んだ甲斐があったよ」
突然、僕の周りで歓声が湧く。
何事かと思って見てみると、背の高い男性が十人程、騒ぎながら僕の方を見ていた。
何かイベントでもあるのだろうか。一先ず、邪魔にならないようにと冒険者ギルドの建物に向かって歩き出す。
「お、歩いたぞ」
「そりゃ、歩くだろ」
「どこに行くんだろ?」
何故だろう。さっきの男性たちが僕と同じ方角に向かって歩き出した。
背後から凄く視線を感じて、背中……というか、首元や脚を凝視されているように思える。
偶然、僕が歩いた方角に何かあるのだろうか。それとも……まさか。でも、念のため。
冒険者ギルドには、今居る通りを真っ直ぐ進めば着くけれど、適当に角を曲がり、細い路地に入りこんでみた。
「……」
少し距離を開けて、後ろの集団も僕と同じ方向について来る。
これってもしかして、僕が狙われているの!?
でも、一部のエリアではプレイヤー同士の戦い――PvPやPKが認められている場所もあるそうだけど、基本的に町の中ではそういう事は出来ないと、攻略サイトに書かれていた。
それなのに、僕が後を着けられている理由は何だろう。貴重なアイテムとかも持って居ないし、そもそも昨日始めたばかりだし。
一先ず、逃げようと思って、走りだした直後、
――ゴスッ
石畳に足を取られ、顔から盛大にこけてしまった。
痛くはないけれど、こけた瞬間に後ろの集団が走って来て……僕の周りを取り囲んだ!?
やっぱり僕が狙われていたの!?
だけど、僕は地面にペタンと座り込んでしまった状態で、もう逃げ出す事も出来ない。
「えっ!? な、何……? 何なの?」
今の僕に残された出来る事はログアウトしかないけれど、未だゲームは続けたいので必死で声を振り絞ると、
「ツバサちゃん! 大丈夫!? 痛くない!? これ――ハイポーションをあげるから使って」
「バッカ野郎! ツバサちゃんは苺味のポーション以外飲まねぇんだよっ! ……ツバサちゃん。ほら、お兄ちゃんがヒールの魔法を使ってあげたからね。もう、痛くないよ」
「ツバサちゃん。これ、オジサンからのプレゼントだよ。見た目は大した事が無さそうに見えるんだけど、回避能力アップの加護が付与されているから使ってみて。絶対役に立つからさ」
僕を取り囲んだ男性……というか、オジサンたちが一斉に喋り出し、何故か異様に心配されてしまった。
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