第10話 アイテムリポップ
「おぉっ! イイなぁ。俺もツバサちゃんを抱きしめたい」
「あぁん!? てめぇ、俺のツバサちゃんに変な事したら、許さねぇぞ!?」
「誰のツバサちゃんだって!? ツバサちゃんは俺の天使だ! 死にてぇのか!?」
お姉さんの大きな胸が押し付けられ、身動きが取れないでいると、周囲から殺伐とした声が聞こえてくる。
けど、それよりも息……息が苦しいっ!
柔らかくて大きな胸は嬉しいんだけど、このお姉さんも、アオイも、僕の呼吸の事を忘れないでっ!
もぞもぞと動き、何とか酸素を確保しようとしていると、
「……ファイア・ストームッ!」
突然お姉さんが大きな声で叫び、その直後に頭上で何かが燃えるような、大きな音がした。
「アンタたちっ! うるさいのよっ! この子が――ツバサちゃんが怯えているじゃないっ!」
「おま……街中で攻撃魔法放つなよっ!」
「威嚇だから良いのよっ! ちゃんと、空に向けて打ったでしょっ!」
怒った様子のお姉さんだったけど、一転して声色が戻り、
「ツバサちゃん。大丈夫だった? このオジサンたちに変な事とかされてない?」
僕の頭を撫でながら、優しく尋ねてきた。
「僕? 何もされてないですよ? 皆とても良い人で、今も僕のバードへの転職クエストを手伝ってくれるって言ってくれて……」
「転職クエスト! じゃあ、私も手伝うっ! お姉さんは、ミユっていうの。レベル52のエレメンタラーよ」
「エレメンタラー?」
「メイジの二次職で、火とか風とかっていう精霊魔法を得意としているの。攻撃魔法なら任せてね!」
ミユさんはアオイよりも年上に見えて、大学生くらいに見える。
そんな綺麗なお姉さんが、魔法少女のプリズムさくらにソックリの格好で、おまけに攻撃魔法を使う……きっとお姉さんもプリズムさくらが好きなんだろうな。
ちょっとホッコリした気分になりながらも、ミユさんが高い身長なのにスカートが短いから、パンツが見えそうでちょっとドキドキしちゃって……あ、見えちゃった。
何か別の事を考えて気を紛らわせ……そう、転職クエストだ。レベル52だなんて、相当凄いし、僕も頑張って皆に追いつかなきゃ。
冒険者ギルドで会った男性に案内してもらい、時折ミユさんとプリズムさくらの話をしているうちに、背の低い木が一面に生えた場所へ着いた。
「ここだ。一週間前に、知り合いのバード転職クエを手伝ったから間違い無いよ」
「ここ……って事は、これがネズモドキの樹なんですね」
「あぁ。だけど、見渡す限り葉っぱばかりだな。前に来た時は、まだ所々にピンク色の花が見えたのに」
辺りはネズモドキ林とも言える程に、多くの樹が生えているというのに、見渡した限りではピンク色の花は一つも見当たらない。
フォーチュン・オンラインがリアルさを追求し過ぎているが故に、開花も次の春を待たなくてはならないという事なのだろうか。
「ツバサちゃん。お姉さんが転職に必要なアイテムを集めてあげるからね。バードの転職クエは確か、ピンクの花だったかしら。ツバサちゃんの為に、お姉さんが一番頑張るからー!」
「あ! あのコスプレ女……ツバサちゃん、待ってて! 俺があっという間に集めてあげるからねっ!」
「ちょ、お前ら……ツバサちゃん! 待っててねーっ!」
葉っぱしかない林を前にして、僕が何も言っていないというのに、皆が花を探しに行ってくれた。
皆さん、本当にありがとうございます。
とはいえ、皆の好意に甘えてばかりではいけないと思い、僕も林の中へ。
だけど悲しくなる程、花が咲いていない。せっかく皆が協力してくれているというのに、このままだと僕は一次職になれないの?
「そんなぁ。お願いだからネズモドキの花……咲いてよ」
葉っぱばかりの枝を眺めながら何気なく呟くと、
『低年齢モード限定、お願いスキルを使用しました』
よく分からないメッセージが表示された。
何の事だろうかと思っていると、突然視界がピンク色に染まる。
何事かと思ってよく見ると、そこら中の枝という枝にピンク色の花――ネズモドキの花が咲き乱れていた。
「え? どうして急に……?」
何が起こったのか理解出来ないまま、一先ずピンク色の花の一つに手を伸ばしてみると、
『ネズモドキの花を手に入れた』
システムメッセージが表示され、ステータスのアイテム欄にネズモドキの花が格納される。
どうやらちゃんとしたアイテムらしい。
とりあえず、続けて十個取ってみると、
『バード転職クエスト1.ネズモドキの花を集めよう(低年齢モード)をクリアしました』
普通にクエストクリアとなってしまった。
達成困難だと思っていたクエストをクリア出来たのは嬉しいんだけど、どうしてこんな急に花が咲いたのだろう。
もしかして、さっきメッセージに表示されていた低年齢モードの事が何か関係が……
「ツバサちゃーんっ! あ、やっぱりこっちも! 良かったねー。全くお花が咲いてなくて心配していたけど、物凄く良いタイミングでリポップして」
「あ、ミユさん。おかえりなさ……んぎゅっ」
どこからともなく走ってきたミユさんが、その勢いのまま僕に抱きついてきた。
「あの、ミユさん。リポップって何ですか?」
「取得したアイテムや、倒したモンスターが復活する事だよー。突然、お花が満開になったから戻ってきたけど、もうアイテムは集まったよね?」
「はい。なので、一旦冒険者ギルドへ戻って、二つ目のクエストに挑戦します」
「うん、そっか! そっちも手伝うから、頑張ろうねっ!」
そっか。偶然、リポップのタイミングになったのか。
暫くすると、他の皆も戻って来たので、一度冒険者ギルドへ戻る事にした。
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