第9話 魔法少女プリズムさくら

「あの、すみません。このクリエイターって、何ですか?」

「クリエイターは、そのカードに書かれた通り、素材を集めてアイテムを作りだす事が出来ます。モンスターと戦わなくても、アイテムを作るだけでレベルが上がるので、バトルが苦手な人にお勧めです。クリエイターに転職しますか?」

「あ、いえ。ちょっと待ってください」


 どうやら、いわゆる生産職というやつみたいだ。

 材料次第で強いアイテムが手に入るけど、戦闘では役に立たないから敬遠されがちなクラスっぽいね。そうでなければ、もっとネットに情報があるはずだし。

 まぁでも、アイテムを作るだけで経験値が入るというのは、運動音痴の僕にはありがたい。戦闘だと、何かミスをしてしまったら、パーティの人たちに迷惑が掛かっちゃうもんね。

 だけど、やっぱりバードかな。せっかく皆で決めてくれた訳だし、歌も嫌いじゃないし。

 あと、クマヨシさんがくれたアイテムがあるから、やり直す事も出来るしね。


「すみません。じゃあ、このカードでお願いします」

「バードですね。では今からご案内する二つのクエストを成功させてください」


 そう言って、お姉さんが二枚の紙を取り出す。


「先ず最初はアイテム集めです。『ネズモドキの花』というアイテムを、十個集めてきてください」

「ネズモドキの花? 一体どんな物ですか?」

「ネズモドキという名の樹に咲く、ピンク色の綺麗な花ですよ。その花から採れる蜂蜜が、喉の薬になるんです。バードは喉が命ですからね」

「なるほど。どの辺りに行けば採れますか?」

「それは内緒……と言いたい所ですが、この町から南東に向かってください。きっと、綺麗な花が咲いていますよ」


 南東か。とりあえず、歩いて行ける場所だと良いんだけど。


「南東ですね。ありがとうございます」

「頑張ってください。『ネズモドキの花』を集めたら、次のクエストをご案内いたしますので」

「分かりました。行ってきまーす」


 お姉さんに手を振り、意気揚々と歩きだすと、


「ちょっと待った。えーっと、ツバサちゃん?」

「はい。何ですか?」


 テーブルで談笑していた二人の男性が近寄って来た。


「ちょっと聞こえたんだがな。ネズモドキの花はバードに転職する際に必要なアイテムだが、いろんなプレイヤーが採取してしまったから、結構数が少ないんだ」

「え? そうなんですか?」

「バードに転職した奴もそれなりに居るからな。ゲームが始まって、まだ二週間とちょっとだから、採取された後の枝に未だ花が咲いていないんだ。だから、俺たちも手伝ってやるよ。人手は多い方が良いからな」

「いいんですか?」

「もちろん。それに、モンスターもそこそこ居るし。だけど俺たちはレベル40台だ。安心してついておいで」

「ありがとうございますっ」


 やっぱりこのゲームは親切な人が多い。僕もレベルが上がって強くなったら、同じように初心者の人に親切にしてあげようっと。

 先程の男性に扉を開けてもらい、建物の外へ出ると、待って居てくれたオジサンたちに囲まれる。


「ツバサちゃん、お帰り。じゃあ、行こうか」

「うげ。また人が――ライバルが増えたじゃねーか」

「いや、ライバルって。お前、鏡見てから言えよ」


 何だかいろんな感情が渦巻いていたけれど、とにかく南東だ。


「そういや、この中でバード系のクラスの奴って居るのか? ……って、居ない!?」

「あー、俺はバードではないが、バードの転職クエを手伝った事はある。だから、行き先は知っているぜ」

「おぉ、新入り! やるじゃないか。じゃあ、俺たちのツバサちゃんをエスコートしてくれ」


 新入り? えっと、これって何かの会だっけ?

 親切な人たちの会? 新人を助ける会? 良く分からないけど、せっかくのご厚意なので、甘えさせてもらおう。


「すみません。じゃあ、お願いします」

「あぁ、任せとけ!」


 そう言って先頭を歩き出した男性に並び、南東へ向かって歩いていると、


「……何なの? このオッサンの集団は」


 どこからともなく、女性の声が聞こえてきた。

 まぁ確かに、これだけ沢山の人が一緒に行動していたら、何が起こっているのか気になるよね。

 何となく声の主を探してみると、薄ピンク色のマントに、何だか喋り出しそうなロッドを持ったお姉さんが、訝しげな表情でこっちを見ている。

 その姿を見た瞬間、時々渚が見ている女児向けの魔法少女アニメの主人公にそっくりだと思い、


「あ……プリズムさくらだ」


 気付けば口に出してしまっていた。

 すると、そのお姉さんが、


「あぁぁぁっ! そうっ! そうなのよっ! プリズムさくら……やっぱり視ている世代の子には分かるよねっ! ありがとうっ! とっても嬉しいっ!」


 何故か物凄く嬉しそうに僕を抱きしめてきた。

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