第8話 一次職転職クエスト
靴に続いて、課金アイテムまで貰ってしまったので、改めてお礼を言わなければと思い、このオジサンの名前も知らない事に気付いた。
一先ず名前を確認しようと思うんだけど、すぐ隣に居るのと、背が高過ぎて頭上に表示されているハズの名前が見えない。
頑張って背伸びして……何とか名前が見えた。
「あ、あの。さっきの靴に加えて、こんな物まで……クマヨシさん、ありがとうございます」
「あはは、いいんだよ。それより、早速バードの転職クエを受けに行こう。僕が案内するよ」
「はい、お願いします」
オジサン――もとい、クマヨシさんにポンポンと頭を撫でられ、冒険者ギルドへ向かって一緒に歩き出す。
「おい。あのオッサン、今ツバサちゃんの頭を撫でたぞ!」
「ふざけんなよ! いえすろりーたのーたっちが、俺たちの唯一にして絶対のルールだろうが!」
「待て。通常エリアでプレイヤー同士が戦ったらBAN……まではいかないにしても、ペナルティで一週間強制ログイン不可とかって話だぜ」
「くっ……一週間もツバサちゃんを見られないなんて、死に等しい拷問だ」
「あぁ。それに、あのオッサンは有名な廃課金野郎でさ。既にレベル80越えで、ファイターの三次職、グラディエーターらしいぜ。どのみち今の俺たちじゃ勝てねぇよ」
後ろの方から何だか難しい話が聞こえてきたけれど、BAN……はアカウント凍結だったかな? つまり、このゲームが出来なくなるって事だ。
いや、それよりも凄いのは、まだ発売されて二週間近くしか経って居ないというのに、この人はもうレベル80を越えているの!?
それに二次職どころか三次職だなんて、全く調べていないからグラディエーターって言われても、何の事だかさっぱりだよ。
「ツバサちゃん。その靴、どうだい? 歩き易いだろ」
「はい、とっても。これでもう、躓きませんよ」
「そうだね。また何かツバサちゃんに合う装備を適当に身繕っておくよ。今の僕にとっては物足りないけれど、一次職には十分な装備が倉庫に眠っているからさ」
なるほど。もう三次職になっているクマヨシさんからすれば、この学びの靴なんて大した事がないアイテムなのか。
でも、初期装備しか持っていなかった僕には十分過ぎる効果なのだろうけど。
しかし、クマヨシさんにフォーチュン・オンラインの事を教えて貰いながら歩いていると、背後からもの凄く視線を感じる。
もちろん後ろに沢山の人が歩いているから当然なんだけど、特に脚に視線が集中している気がするのは何故だろう。
何となく後ろを振り返ってみると、
「あ、ツバサちゃんと目が合った!」
「ツバサちゃーん! 歩くの疲れない? おんぶしてあげようか?」
「あぁん!? お前、調子に乗るなよっ!」
何故か僕を中心として、扇状に展開して歩くオジサンたちがニコニコしている。ただ、その後ろからは殺伐とした声が聞こえてきたりもするけれど。
とにかく賑やかな人たちみたいだ。
そんな感じで歩いていると、いつの間にか冒険者ギルドの建物に辿り着いた。
相変わらず大きくて重たい冒険者ギルドの扉を開けようとして、一生懸命取っ手を引っ張っていると、
「ツバサちゃん、マジかわわ」
「頑張れ! あと少しだよっ!」
「……いや、お前ら。それと、すぐ傍にいるオッサンも、開けてやれよ。ツバサちゃんが困ってるだろ」
そんな言葉が飛びかい、スッと扉が軽くなる。
どうやら先程の大学生くらいの人が開けてくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
「これくらいで、お礼なんてしなくて良いよ。それより早く転職クエストを受けておいで」
「はいっ」
ペコリと頭を下げて、冒険者ギルドの建物の中へ。
アオイは居るかな? と思って辺りを見渡してみたけれど、三十歳くらいの男性二人がグラスを片手に談笑しているだけで、僕が探している姿は無かった。
今日はログインしていないのか、それともお兄さんと狩りへ出掛けているのだろうか。
「お、おい。あれ、見てみろ……」
「何だ……えっ!? JSだと!? マジかよ。フォーチュン・オンライン始まったな」
「これは是非お近づきに……うおっ! 何だ? 入口からメチャクチャ睨んでくる奴らが居るぞ!?」
二週間以上前からゲームは始まっているけど、一体何が始まったのだろう。
ちょっと聞いてみたい気もするけれど、ついて来てくれた人たちが外で待ってくれて居るので、受付のお姉さんに直行する。
「すみません。えっと、一次職の転職クエストを受けたいんですけど」
「はい。では、こちらの中から、どのクラスに就かれるかを教えてください」
お姉さんが可愛らしいイラストの描かれたカードをカウンターに並べる。
どうやら一次職の説明用らしく、クラスの名前と簡単な説明文も書かれていた。
『ファイター。けんや、おのをつかって、モンスターとたたかうよ。こうげきがとくいだけど、まほうはつかえないよ』
『ストライカー。パンチやキックでたたかうよ。でも、がっこうではやっちゃダメ。れんぞくこうげきが、できるよ』
『ソルジャー。おおきなたてで、みんなをまもるよ。ちょっとむずかしいかも』
……どうして、説明文が全てひらがなとカタカナだけなの? 読み難いんだけど。
あと、クラスを説明するイラストが全部小さな女の子はどうなんだろうか。ファイターなんて、描かれた女の子の身長と同じくらいの長い剣を掲げているし。
『シーフ。すばやいうごきで、モンスターをこまらせるよ。ブーメランや、なげナイフがつかえるけど、まわりのおともだちに、きをつけてね』
『シューター。ゆみやをつかって、とおくのモンスターをこうげきできるよ。でも、やのかずにちゅういしてね』
『バード。おうたで、おともだちをパワーアップ。まわりにいる、みんなにこうかがあるよ』
『メイジ。まほうをつかって、モンスターをやっつけるよ。でも、まほうはこうかがでるまで、ちょっとじかんがかかるよ』
『アコライト。せいなるちからで、おともだちのけがをなおすよ。モンスターにねらわれやすくなるから、きをつけてね』
『テイマー。モンスターと、おともだちになれるよ。モンスターが、かわりにたたかってくれるから、ちゃんとおせわしてあげてね』
とりあえず全部見てみたけれど、どのカードも同じように女の子のイラストでクラスが描かれていた。
メイジのイラストなんて、ピンク色のフリル付きのヒラヒラしたワンピースに大きな杖……って、見た目が完全に魔法少女なんだけど。後は、変な犬とか猫とかの使い魔的マスコットキャラが居れば完璧だ。
苦笑交じりにカードを眺めていると、
「あれ? もう一枚ある?」
可愛らしいモフモフうさぎに囲まれた幼女テイマーが描かれたカードの下に、もう一枚カードがある。
ネットで見た一次職は全て出ているはずなんだけど……
『クリエイター。いろんなアイテムをつくりだせるよ。あんまり、たたかわなくてもいいよ』
見てみると、幼い女の子が白衣を着て、フラスコみたいな物を手にしたカードが置かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます