第7話 オジサンたちによる、一次職討論会
「あ、ズルイぞ! よし、俺もツバサちゃんに協力するよ!」
「俺も俺も! 一次転職クエだろ? お使いとかアイテム集めが殆どだし、手伝うよ」
「そうそう。俺なんて、最近一次職に就いたばかりだから、クエスト内容もはっきり覚えてるよ!」
凄い。一人のオジサンが転職を手伝ってくれると言った途端に、集まっている人たちも協力を申し出てくれた。皆、凄く親切な人ばかりだ。
昨日のアオイもそうだけど、このゲームはプレイヤー同士で互いに助け合うんだね。
昔、ちょっとだけプレイした事のあるオンラインゲームは、効率を求める人ばかりでギスギスしていて、すぐに辞めちゃったけど、このゲームなら続けられそうだ。
ただ、何故か僕の事を、ちゃん付けで呼ぶ人が多いけど。
親切な人が多いから、親しみを込めているのかな?
「ところでツバサちゃん。どの一次職に就くのか、もう決めているの?」
「あ、えっと、まだ決めてはいないんですけど、バードかメイジ、アコライトのどれかにしようかなって思ってます」
「なるほど。基本的に後ろが良いんだね。僕も、ツバサちゃんにはそっちの方が合っていると思うよ」
最初に手伝うと言ってくれた、靴をくれたオジサンが僕の言葉を聞いて深く頷く。
どういう訳か、このゲームは背の高い人たちが多いし、僕は運動神経が良くないから前衛は難しいと思うんだよね。
だから、後衛から皆を支援しようと思うんだ。
そんな事を考えていると、
「ツバサちゃんは絶対バードだろ。俺は、それ以外のクラスは絶対に認めねぇ!」
「何を言う! ツバサちゃんはメイジに決まっているだろ! ドジっ子魔法使いになって、パーティを癒すんだ!」
「バカだなぁ。癒しを求めるのなら、アコライト一択じゃないか。ツバサちゃんが祭服に身を包んで、回復魔法を使って癒してくれるんだぜ? 俺は前衛として、命に変えてもツバサちゃんを護るね」
どういう訳か、僕の一次職が何が良いかで、オジサンたちが討論を始めてしまった。
僕の事なのに、こんなに親身になって考えてくれるなんて、本当に良い人ばかりだ。
「服装の事を言うのなら、ストライカーじゃないか? 二次職への転職でバシュカーかグラップラーに分かれるけど、どちらを選んでも見た目は最高だろ?」
「それなら、テイマーだって捨て難いぜ。可愛いモフモフペットに包まれたツバサちゃん……あぁ、想像しただけで萌えるっ!」
「どっちも無ーよ! テイマーなんて三次職まで進んでも、ビーストマスターやスライムマスターなんて使えないネタクラスだし、ツバサちゃんがストライカーになって、前衛で怪我でもしたらどうするつもりだ。それに、そもそも、どちらもツバサちゃんの候補に入って無いだろうが!」
一次職から更に進んだ二次職や三次職では、一次職のクラスを基にして、更に多様化していくのだけれど、ネットで見た通りテイマーはやっぱり使えないのか。
猫や兎は好きだけど、どうせやるなら性能を重視したいしね。
あとネットで見た情報では、確かバシュカーが殴打に特化したコンボ技系で、グラップラーが体術全般を修得出来るんだっけ。
うーん。改めて考えてみても、やっぱり僕には無理そうかな。
「皆、良く聞け。バードの特技は何だ? 歌だぞ? 皆、ツバサちゃんの歌声を聞いてみたくはないか?」
「ツバサちゃんの歌……そ、それは確かに聞いてみたい」
「それにだ。バードの二次クラスには何がある?」
「……あっ! ダンサーだっ!」
「そう、ダンサーだ。衣装の事を言うのであれば、ダンサーに敵うクラスがあるか? しかも、踊るんだぜ? ツバサちゃんが、踊るんだ!」
ゴクリ……どこからともなく、喉を鳴らす声が聞こえた気がする。
二次職の事はまだちゃんと調べてないけど、バードの二次職は支援に特化したミンストレルと、弱体化を修得可能なダンサーだったかな。
歌はともかく、僕はダンスなんて出来ないから、一次職をバードにするなら、二次職はダンサーではなくミンストレルを選択するけど。
というか皆、僕の歌を聴いたり、踊りを見たりして、面白いのかな?
ダンスなんて踊った事はないし、歌も期待するほどじゃないと思うよ?
「……よし、決まったな。ツバサちゃん。俺たちは、ツバサちゃんはバードになるのが良いと思うんだけど、どうかな?」
最初にバードを提案したくれた大学生くらいの男の人が、優しく話しかけてきたんだけど……やっぱりこの人も背が高い。ほぼ真上を見るくらいのつもりで、見上げないと顔が見えない程だ。
まぁでも身長の事はさておき、バードは元々一次職の候補にしていたし、それで良いやと……と思った所で、靴をくれたオジサンが再び口を開く。
「ツバサちゃん。一次クラスの選択は重要だから迷う気持ちは分かるけれど、あんまり深く考え過ぎなくても良いと思うよ。というのも、このゲームはあるアイテムを使えば、レベルをそのままに、一次クラスからやり直せるんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そうなんだ。とは言っても、そのあるアイテムっていうのが、ゲーム内では手に入らない課金アイテムなんだどね」
「あ……そうなんだ」
「でもね、僕たちみたいなオジサンからすると、課金アイテムって言っても、この程度の金額は大した額じゃないんだ。だから、ツバサちゃんに一つプレゼントするから、軽い気持ちでバードになってみると良いよ」
そう言って、オジサンが一枚のカードを差し出してきた。
そのカードを手に取ると、
『クラスリセットを受け取った』
というシステムメッセージが表示される。
僕は皆の背が高いなーって考えていただけなんだけど、どうやら一次職を何にするかで迷っていると思われたみたいだ。
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