第11話 即席コンサート

「すみませーん。クエストが終わったので、報告に来ましたー」

「お疲れ様です。ではネズモドキの花を十個……確かに受け取りました。では、次のクエストです。こちらのクエストをクリアすると、晴れてバードに転職可能となります」


 冒険者ギルドへ戻り、僕一人で中へ入って、受付のお姉さんに転職クエストの一つ目の完了報告を行うと、


「次はバードの特技とも言える歌を、街の人に聞いて貰いましょう。どんな歌でも構いませんので、十人に歌を聞いて貰ってください」


 歌を聞いてもらうというクエストが発生した。

 バード――吟遊詩人だからね。クエストに歌関連の物があって当然か。


「あの、どんな歌でも良いのですか?」

「はい、構いません。童謡でもアニメの主題歌でも、自分で作った歌でも何でも良いですよ」

「自分で作った歌……って、例えばですけど、五秒くらいで終わる歌でも良いんですか?」

「えぇ、その通りです。ツバサさんが歌だと認識していれば、何でも構いません。また、他の歌で歌詞が誤って居たり、リズムや音程が外れていても、クエスト達成となります」


 なるほど。一先ず、このクエストは人前で歌う度胸さえあれば良いと言う事か。

 クエストの内容と求められている事を理解した所で、お姉さんが意外な事を言ってきた。


「ですが、これらの達成条件は低年齢プレイヤー補正――冒険者ギルドからの依頼が一律易しくなっているが故の措置ですので、御注意願います。一般プレイヤーですと聞かせる人数は三十人ですし、課題曲も決まっていますので」

「えっ!? 三十人!? 三十人集めるって、結構大変じゃないですか?」

「そうですね。しかし、バードはまだ比較的容易な方で、テイマーなどは……こほん。何でもありませんよ?」


 お姉さんが突然、喋り過ぎた! と言わんばかりの様子で、誤魔化すようにニッコリと笑顔を浮かべる。

 時々出てきた低年齢プレイヤー補正は、一体何歳まで適用されるんだろう?

 むしろ中学生の僕よりも、社会人の人の方がゲームに費やせる時間が少ないから、クエストを容易にしてあげた方が良いと思うんだけど。


「あの、依頼が易しくなるという事は、報酬も普通より低くなっちゃうんですか?」

「いえいえ。むしろ報酬は多くなります。ただ、チュートリアルでも説明があった通り、ログイン時間が二十二時までと制限されますが」


 あ、昨日ログイン出来なかったのって、ちゃんと説明されていたんだ。

 という事は、やっぱり僕がお隣さんに捕まっている間に、チュートリアルが終わっちゃってたんだね。


「他に何か質問はありますか?」

「あ、いえ。一先ず大丈夫です。頑張ってきまーす」


 お姉さんに手を振り、入口へ向かうと、


「ツバサちゃん、おかえりー。すぐにクエストが終わらせられるように、三十人集めておいたわよー」

「ツバサちゃんの美声、楽しみにしているからねー!」

「ツバサちゃん。頑張ってーっ!」


 ギルドの建物の入口を囲むようにして、人垣が出来ていた。


「おぉーっ! あれが、噂のツバサちゃんかぁー!」

「ツバサ! ツバサ! ツバサ!」

「おい、お前ら興奮し過ぎだ! 落ち着け! ツバサちゃんが困っているだろ!」


 誰かの声で静かになったものの、今まで大勢の人から注目された事なんて無いから、これはこれで困るんだけど。


「何だ? ここで何があるんだ?」


 ひぇぇぇ。こういう時に限って、近くを歩いているプレイヤーが居て、人垣に混じって僕を見てくる。

 早くしないと、ますます人が増えてしまいそうだし、この視線も止まらない。と、とにかく早く終わらせなきゃ。


「あ、あの……僕、今から歌を歌いますので、聞いてください」


 そう言った途端、大きな拍手が巻き起こる。

 ……って、しまった。僕、何を歌うかなんて全く決めてなかった。

 短くて、歌詞を見なくても歌える歌は何かないかな? 早くしないと、微妙な空気になっちゃうし、どうしよう。……どうしよう? こ、これかな?


「えっと、それでは、クラリネットが壊れた歌です」


……


 温かい視線と熱い視線を受けながら、何とか一番を歌い切る。

 すると、


『バード転職クエスト2.皆に歌を聞いてもらおう(低年齢モード)をクリアしました』


 先程と同じ様にクエストクリアのメッセージが表示された。

 これで僕もバードに転職だ!

 そう思ったのだけど、何故だか手拍子が止まらない。

 これは二番も歌えという事だろうか。

 な、何だか、皆が凄く僕に注目している。


「ツバサちゃーんっ! 頑張ってーっ!」

「頑張れツバサちゃーんっ!」

「らぶりー! ツバサーっ!」


 一人、よく分からない事を言っている人も居たけれど、どうやら僕が緊張して口を閉ざしていると思われているみたいだ。

 もうクエストが終わったからなんだけど……これは歌うしか無いのかな。


……


 結局、二番を歌い終えても手拍子が止まず、結局全部歌い切る事になってしまった。


「ツバサちゃーんっ! 可愛いーっ!」

「フォーチュン・オンラインのディーバが誕生したぞっ!」

「アンコール! アンコール!」


 周りからツッコミ所満載の掛け声が飛ぶ。

 可愛い……はそもそも違うと思うし、ディーバって歌姫って意味だよね? 性別が間違ってるよっ!

 あと、もう転職クエストは終わったんだから、アンコールは要らないよっ!


「あ、ありがとうございました!」

「俺たちはディーバ誕生の瞬間に立ち会ったんだーっ!」

「ディーバ! ディーバ! ディーバ!」


 慌てて頭を下げると、僕は逃げるように冒険者ギルドの建物の中へと入る。

 何か暗黙のルールでもあるのか、皆冒険者ギルドの外で待ってくれているので、僕は再び受付のお姉さんの許へ。


「お疲れ様でした。では、これでツバサ様は晴れてバードとなります。受けられる依頼の種類も増えていますので、当ギルドを是非ご活用ください」

「はい、ありがとうございます」

「あと、こちらは転職祝いの品です。どうぞ、お受け取りください」


 お姉さんから差し出された品、「風のリュート+30」「詩人の服+30」「超蜂蜜×20」を受け取り、僕は晴れてバードへと転職した。

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