第35話 ギブアップ

「えっと、ツバサちゃん。聖母の癒しのギルドマスターとお友達なの?」

「姫様。相手ギルドの幼女、もといギルドマスターとお知り合いなのですか?」


 育代さんの行動で、こっちのギルドメンバーも、向こうのギルドメンバーもとにかく混乱している。

 GvGの真っ最中だというのに、誰も何も出来ずに、ただただ僕たちの様子を眺めていた。


「巨乳お姉さんに抱きしめられるツバサちゃん……間に挟まれたい」

「いや、ここは巨乳お姉さんと一緒にツバサちゃんを挟むのが正解だろう」

「そうだな。あの巨乳のお姉さんがママで、俺がツバサちゃんのパパ……これだな。そして家族水入らずで、三人で一緒にお風呂へ入るんだ」


 前言撤回。相手ギルドのメンバーが混乱しているのは正しいけれど、こっちのギルドメンバーは、僕と育代さんをニヤニヤしながら眺めているだけだった。


「ツバサちゃんは、ミンストレルになるって言っていたけど、ダンサーになったのね? それはそれで、可愛いわぁー」

「こ、これには色々と訳がありまして。それより、育代さんが聖母の癒しのギルドマスターだったんですね」

「んー、ギルドマスターっていうのは良く分かっていないけど、皆良い人ばかりで、とっても親切にしてもらっているのよー」


 それは分かる気がする。

 FOをプレイしている人達は、本当に皆親切で良い人だと思う。

 ただの男子中学生である僕が、物凄く親切にしてもらっているのだから、綺麗で胸の大きな育代さんなんかは、それ以上に凄く良くしてもらえそうな気がする。

 実際、育代さんは聖母の癒しギルドの人たちから姫って呼ばれているけど、そう呼ばれても全く違和感が無い程、綺麗でおしとやかな人だしね。

 しかし、GvGの相手が育代さんか。

 正直言って、知っている相手、しかも綺麗な育代さんと戦うなんて、もう僕には出来そうに無い。

 だけど、クリスの事もあるし……どうしよう。


「あら、ツバサちゃん。何か困っているみたいね。どうかしたの?」

「え、えーっと、実は……」


 育代さんに聞かれ、聖母の癒しギルドの皆が注目する中で、僕がギルドを作り、GvGで優勝を目指している理由を話すと、


「うぅ……ツバサちゃん。貴方は、本当に良い子ねぇ」

「育代さん……胸がっ、胸に押しつぶされちゃう……」


 育代さんに再び抱きしめられてしまった。


「この嬢ちゃん……めちゃくちゃ優しい子じゃないか。どうして、あっちのギルドの奴らは、こんなに可愛くて優しい嬢ちゃんを、エロい目で見られるんだ?」

「いや、しかしこの子を見ていると、父性とでも言えば良いのか、守ってあげたくなるな」

「うちの姫がこの子を抱きしめる姿……これこそ、まさに聖女。バブみの極みじゃないかっ!」


 聖女の癒しギルドの人たちが、いろいろ言っているのが聞こえてくるけど、僕もそう思うよ。

 オジサンたちからすれば、育代さんはお嬢ちゃんって年齢かもしれないけど、こんなに優しい人をエロい目で見ちゃダメ……いや、まぁその、大きな胸に顔を埋めている僕が言える立場じゃないけどさ。

 でも、育代さんは守ってあげたいって気になるし、まさに聖女だよね。

 そんな事を考えていると、育代さんが口を開く。


「聖女の癒しギルドの皆さん。一つ、私のワガママを聞いていただけないでしょうか」

「姫……皆まで言わなくても、大丈夫です。姫と、この子の優しい気持ちは皆に伝わってますよ」

「……ありがとうございます。では、私たち聖女の癒しギルドは、GvGをギブアップします」


 その直後、


『GvG決勝が終了いたしました。聖母の癒しギルドのギルドマスターがギブアップを宣言したため、ギルド「天使護衛団」の勝利となります』


 いつものシステムメッセージが表示され、育代さんの温もりが消えて行く。

 それから視界が切り代わり、見慣れた冒険者ギルドへと戻ってきた。


「おぉぉっ! マジかっ! こんなミラクルがあるのか!? まさかの大金星だよ、ツバサちゃん」

「で、でも、今回も僕は何も出来なかったんだけどね」

「何を言っているのさ。ツバサちゃんが踊ってくれたから、そして相手ギルドのメンバーの心を動かす話をしてくれたからこそだよ」


 最前線で戦っていたコージィさんの方が絶対に凄いと思うんだけど……と、そんな事を考えていると、


『おめでとうございます。GvG優勝ギルドである「天使護衛団」の皆さまには、今後正式実装予定のレイドバトルへ一足先に参加いただけます』

『今から十分後に、「魔王の子」とのレイドバトルを行いますので、御準備をお願いいたします。尚、バトルフィールドは湖の神殿です』


 レイドバトルを始める旨のシステムメッセージが表示された。

 やった! 僕は、クリスを守る事が出来たんだ!

 一人、喜びを噛みしめていると、突然シュタインさんが大きな声を上げる。


「な、何だって! 湖の神殿だって!?」

「湖の神殿がどうかしたの?」

「ツバサちゃん! これは一大事だよ! 湖の神殿と言えば、その名の通り水に囲まれていて、きっとびしょ濡れになっちゃうよ! だから、ここは水着とかに着替えるべきだと思うんだ!」

「え? でも、場所が湖の神殿でも、僕は戦いに行く訳じゃないから、今のままで……というか、普段着で大丈夫だよ」

「ちょ、待って! ツバサちゃ……あぁぁぁっ! 体操服がっ! ブルマがぁぁぁっ! スク水がぁぁぁっ!」


 GvGで生き残る為に来ていた体操服とブルマのセットから、一番最初に貰った初期装備、旅人の服に着替えると、どういう訳かシュタインさんががっくりと肩を落とし、


「てめぇっ! 余計な事を言いやがって!」

「俺たちのブルマを返せっ! 太ももを返せっ!」

「スク水ぅぅぅっ!」


 周囲のオジサンたちから、よくわからない内容で責められていた。

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