第36話 湖で戯れる女児

 湖の神殿という場所に転送された後、暫く周囲のオジサンたちのブルマ派とスクール水着派の戦いを眺めていると、


『時間になりました。只今より戦闘開始です!』


 いつものメッセージが表示され、神殿の門が開いた。

 あとはクリスに会うだけだ。

 クリスはビックリしてくれるかな?

 前は会いに行こうとしたけど、道に迷っちゃって会えなかったもんねー。

 アオイやミユさんに、育代さんと綺麗なお姉さんたちに抱きしめられるのはもちろん嬉しいし、周りのオジサンたちが親切にしてくれるのも、凄く有り難い。

 だけど、クリスは初めてにして唯一の、同年代で同性のお友達だもん。

 また、前みたいに鬼ごっこだとか、隠れんぼなんて他愛ない遊びをしたいな。

 そんな事を考えながら歩いていると、


「ツバサちゃん、危ないっ!」


 突然背後から誰かの声が聞こえた。

 気付けば、見た事ない悪魔みたいな姿のモンスターがいて、大きなカマを僕に向かって振り降ろす。

 咄嗟の事で身体が硬直してしまい、思いっきり直撃して……


「あれ? そこまで痛くないや。もぉっ! 邪魔しないでよっ!」


 慌ててアイテム欄から旅人の短剣を装備すると、掛け声と共に突き刺す。


「えいっ!」

「え……今のって、バフォメットだよな!? 悪魔系の高位モンスターで、レベル90台のパーティで戦うような相手を一撃で倒した!?」

「流石にバフォメットを一撃は無いだろ。ツバサちゃんってレベル60くらいのダンサーだぜ。レイドバトル専用のイベントモンスターだろ」


 目の前に現れ、僕の道を塞ぐモンスターだけを攻撃して、真っ直ぐ神殿の奥へ。


「ちょ、モンスターが強すぎないかっ!? ……って、あっちにオルトロスがっ! だぁぁっ、バジリスクまで居やがるっ!」

「おい! 誰かツバサちゃんを守れっ! ツバサちゃんに絶対怪我なんてさせるなよっ!」

「無理だって! モンスターが強すぎて、ツバサちゃんの元にまで辿り着けねーよっ!」


 後ろが少し騒がしいけれど、皆はボクよりも遥かに強いから、きっと大丈夫だろう。

 そう考えて前に進むと、全身真っ黒の服で、長い金髪……クリスの姿を見つけた。


「やっと会えたっ! クリスーっ! 僕だよ、ツバサだよーっ!」

「来たか! 愚かな人間どもよ。無謀にも、偉大なる魔王の血に挑んだ事を嘆くが良い!」

「……クリス!? 何を言っているの!?」

「契約に従い、我が下へと参れ! サモン――ヒュドラ!」

「クリスッ!?」


 僕の事を見ているはずなのに……視界に僕が映っているはずなのに、全く気にした様子もなく、頭から沢山の蛇が生えた変なモンスターを召喚する。

 それから、変な高笑いを上げながら、大きな紅い剣を取り出し、僕に向かってモンスターと共に近寄って来た。

 どうして!? また一緒に遊ぼうって言ったのに。友達だって言ったのに。


「クリス……僕たち、友達になったんだよね!? だったら、無視しないでよっ! お願いだから、この前みたいに一緒に遊ぼうよっ!」


 目の前まで迫り、上段に大剣を構えたクリスに向かって叫ぶと、


『低年齢モード限定、お願いスキルを使用しました』


 以前にも目にした事のあるメッセージが表示された。

 その直後、周囲に居たモンスターが突然姿を消し、


「ツバサ! すまない。我は友であるツバサに向かって、一体何をしていたのか……誠に申し訳ない!」


 大剣を手から落としたクリスが僕に抱きついてきた。


「クリス! 僕の事がわかるの!?」

「あぁ、何故か先程までは自分が自分では無かったが、今は違う。ハッキリと自分の意識がある」

「良かった! じゃあ、一緒に遊ぼう! 今日は何する!?」

「そうだな……そうだ! ツバサは泳げるか? 泳げるのならば、せっかく湖にいるのだから、一緒に泳ごうではないか」

「当然泳げるよっ! じゃあ、行こう!」


 前に会った時と同じように、クリスが何かのスキルを使い、一瞬で神殿の外へ移動し、あっという間に湖の目の前に居た。

 友達と一緒に泳ぐなんて、学校のプールの授業以外では一度も体験した事がないので、ちょっとドキドキするけれど、ワクワクもする。

 早速、水着に着替えて……って、しまった! 僕、女性用のスクール水着しか持ってないよっ!

 流石に友達から変態扱いされるのは嫌だなと思っていると、既にクリスは水着姿になって居て……


「え? ちょ、ちょっと待って。その格好って、クリスは……女の子だったの!?」

「ツバサ。流石にそれは酷い。どこからどうみても、我は女だ。それより、ツバサは水着に着替えないのか? なければ、我が水着を用意しよう」


 上下黒色のビキニタイプの水着姿になっていたクリスが、僕に水色の水着を渡してくれた。……ワンピースタイプの可愛いフリルが付いた水着を。

 いや、だから、どうして皆女の子用の服を僕に渡すのさっ!


「ツバサー! 早く来るのだ! 気持ち良いぞっ!」

「あ……。うぅ……ま、待ってよクリスーっ!」


 目の前で楽しそうに泳ぐクリスを見て、水の中なら見えないし、もうどんな水着でもいいや……と、貰った水着に着替えて、後を追う事にした。

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