第34話 聖母の癒しギルド
「えぇー、ツバサちゃん。ベリーダンスの衣装は?」
「俺はダンサーのデフォルト服が良い」
「いや、だがしかし、やはり体操服とブルマはツバサちゃんにベストマッチだ。これは、これでイイ!」
周囲が色々と言っているけれど、相手は専守防衛タイプだって言う話だから、こっちから攻めないと。
「皆、相手ギルドのギルドマスターを目指して、早く行こうっ!」
「そうだな。ツバサちゃんの言う通りだぜっ!」
「……体操服姿のツバサちゃんの後ろを走るのって、何だか青春っぽい……って、ツバサちゃん、走るの早過ぎない!?」
あ、体操服のセット効果に年齢適合効果が加わって、敏捷性が凄い事になっているんだった。
ギルドマスターの僕が一人で行動する訳にもいかないと、皆を待って移動する。
……コージィさんみたいな身軽な前衛タイプは良いんだけど、シュタインさんみたいな重そうな鎧を着込んだ盾役の人はかなり大変そうだ。
広いフィールドで、しかも相手側が一切動かないので、五分程かかってようやく相手ギルドが見える位置まで来ると、
「マジかよ。ほんの僅かな時間で、ここまでやれるのか」
相手のギルドマスターを守るようにして浅い堀が作られ、堀の内側で重装備の盾役、オジサンたちが壁を作っている。
「ふふん。ここは私の出番ね。ファイア・ストームッ!」
ミユさんが、固まっている相手を魔法攻撃で一網打尽にすべく、紅い炎が相手ギルドを包み込む。
しかし、淡く輝く水色のガラスのような壁に阻まれ、ミユさんの魔法が消滅してしまった。
「げ! 結界魔法よ! あれを使われると、遠距離攻撃が効かないのよ!」
という事は、接近戦で先ずはあの盾役の騎士たちを倒さないといけないのか。
「一点集中で突破するぞっ!」
シュタインさんの合図で皆が一斉に攻めて行くが、浅くても堀は堀らしく、それがネックになっていて、攻めきれない。
よし、せっかくダンサーになったんだから、僕も踊りで支援しよう。
スキル欄を見ていると、いくつか踊りの種類があるけれど、ベリーダンスが相手の防御力低下効果らしいので、早速取得してスキルを発動させる。
すると、どういう仕組みかは分からないけれど、どこからともなくアラビアっぽい曲が流れ、くねくねと僕の身体が動きだす。
何と言うか、腰を振ったり、回したり、もの凄く激しい動きではないものの、身体全体を使って……疲れるっ!
「なっ! ツバサちゃん! マジかっ!」
「な、何だってーっ! こ、こんなの戦っている場合じゃねぇっ!」
「おぉぉぉっ! 体操服で腰を動かすダンス! これは何とも言えない危なさがあって……良いなっ!」
僕の周りにいたオジサンたちが、相手ギルドの人たちではなく、僕に目を向けている……って、このスキル、相手へのデバフ効果のはずだよねっ!?
何故か、自分の味方に状態異常であるスタンがかかってない!?
一方で相手ギルドの人たちが僕たちを見て、意味不明な事を言っている。
「おい。あいつら、続々と集まってきたのに、幼女しか見ていないんだが。やる気あるのか?」
「さぁ。俺たちには少しも理解出来んが、要はロリコン集団なんだろう」
「まったくだ。巨乳こそ正義! 全てを抱擁する大きな膨らみこそが至高! バブみこそが最高なのだっ!」
バブみってどういう意味だろう。
それに幼女って言っても、アオイはもっと後方だから、ここにはいないんだけど。
ミユさんは幼女って感じじゃないし……まぁいっか。
それよりも、最前線に居るコージィさんが敵に背を向けて、僕の踊りを見ている。
いやいや、そんな楽しい踊りじゃないし、僕の踊りなんて見なくて良いから、前を見てっ!
だけど、僕がそれを指摘する前に、隙だらけのコージィさんに向かって、重そうな鎧を着た相手ギルドの人が、剣を振り下ろす!
「コージィさん! 危な……」
「ツバサちゃんの踊りを邪魔すんなぁぁぁっ!」
――え?
僕が声をあげようとした瞬間、コージィさんが振り向きもせずに裏拳を放ち、そのまま流れるように回し蹴りを叩き込む。
「お前らっ! 今、ツバサちゃんが一生懸命踊っているんだ! それが分からねぇのかっ!」
「こ、こいつ、何を言っているんだ!?」
「あぁん!? ツバサちゃんが踊っているんだぜ!? それを邪魔するって事がどういう事か分かってんのか、お前らぁぁぁっ!」
「ちょ、何だこいつっ!? いや、こいつだけじゃねぇ! このギルド、幼女が踊り始めてから、全員目がイッちまってるぞっ!」
どうやら相手ギルドの盾役の内側にプリーストが居るようで、すぐさま回復魔法で傷が癒されているんだけど、何故か怯えたような表情で逃げようとしている。
「やべぇよ。こいつら、ガチだよ。ガチのロリコン集団だ……怖すぎるっ!」
「おいおい。何を怯えて……ふぐゎっ! 何だよ、この強さはっ! というか、あの中心に居る幼女は大丈夫なのかっ!? 相手ギルドながら、心配になるわっ!」
「何度も言わすなっ! ツバサちゃんの邪魔をするなっ!」
コージィさんの快進撃? で敵の中へと突撃していく一方で、
「ツバサちゃーんっ! もっとお尻を振ってーっ!」
「おい! どさくさに紛れて触ろうとすんなっ! 消すぞっ!?」
「あぁん!? そういうお前こそ、しゃがみ込んでツバサちゃんを見ようとしていただろうがっ! このクサレ外道がっ!」
何故か僕の背後から争うような声が聞こえてくる。
ちょっと待って! せっかくコージィさんが道を切り開いたのに仲間内で争うのっ!?
というか、全く見えてなかったけれど、後ろから見ている人も居たんだっ!?
背後の存在を意識してしまったからか、やらたとお尻や太ももに視線が集まっているような気がして、仕方がない。
そして、皆のテンションが上がっていったのか、
「ツバサ! ツバサ! ツバサ!」
今度は僕の名前が大声で連呼され始めた。
GvGの決勝戦のはずが、カオスな状態になっていると気付いた時、
「ツバサ? 幼女? ……もしかして、ツバサちゃん!?」
相手ギルド側から綺麗な女性な声が聞こえて来た。
「なっ!? 姫様。ここは危険です。奥へ御戻りください。……おい、近衛兵は一体何をしているんだっ!」
「すみません。しかし、姫様がどうしてもと……」
姫様? 相手ギルドもオジサンばかりなのに姫様って……あ! もしかして、相手ギルドのギルドマスターなのっ!?
僕がそう思った直後、相手ギルドの盾役の人たちを押しのけ、綺麗なお姉さんが近寄って来た。
「あー! やっぱり! ツバサちゃんだーっ! しかも、ダンサーになってるーっ! 可愛いっ!」
無防備に近寄って来たお姉さんに、正面で争っていたメンバーも動きを止めて、呆気に取られる。そして、
――むぎゅうっ!
そのまま僕の許へとやってきたお姉さんが、思いっきり僕を抱きしめた。
僕の顔が柔らかくて、大きな、そして優しい膨らみに埋められる。
この声と、柔らかく温かい膨らみは……
「育代さん!? 聖母の癒しのギルドマスターって、育代さんだったんですか!?」
「うん、そうよっ! もー、ツバサちゃん。本当に久しぶり。会いたかったよーっ!」
育代さんに抱きしめられ、僕は踊りスキルを止め、その温もりを暫く堪能させてもらった。
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