第47話 脱がしスライム
「久しぶり。ツバサちゃんに会えなくて、オジサンすっごく寂しかったよー」
「そうそう、ギルドを作ってGvGで優勝したんだって? 凄いね! おめでとー!」
「あ、そうだ。ツバサちゃんは、この服どう思う? スクール水着と、このセーラー服。どっちが好みかな? 水着も捨てがたいけど、オジサンはこういう服がツバサちゃんに似合うと思うんだよねー」
クマヨシさんが一方的に喋りながら、白い半袖のセーラー服を見せてくる。
だけど、僕は麻痺状態で動く事が出来ないし、そもそも喋る事すら出来ない。
「……あ! そうか。どうして素直なツバサちゃんがオジサンの言う事を無視するんだろうって不思議に思ったけど、状態異常だったね。ごめんごめん。オジサンとした事が、すっかり失念していたよ」
そう言って、小瓶に入った緑色の液体を僕の身体に振りかけた。
「どう? これで、沈黙状態が解除されて、喋れると思うんだけど」
「あー……あー、あー……本当だ。声が出る……って、クマヨシさん。一体、何をしているの?」
「ツバサちゃんは優しいねぇ。こんなオジサンの事を気に掛けてくれるなんて。オジサンは一週間前にペナルティでFOにログイン出来なくなって、暫くツバサちゃんに会えなくなったんだけど、ある方法を使ってすぐにログイン出来るようになったんだよ」
何をしているのか? という僕の質問を、かなり歪曲して受け止められてしまったけど、変に口を挟むのも怖いので、一先ずそのまま聞く事にする。
「実はね、ペナルティやBANでアカウントが凍結されちゃっても、そのアカウントを破棄して新規でアカウントを作りなおせば、すぐにログイン出来るんだよ。まぁレベル1からの初期状態に戻っちゃうけど、オジサンくらいになると、一週間あれば三次職なんてあっという間だからね」
「す、凄いですね」
「そうだろう。でもね、前回と違って、今回のオジサンはもっと凄いんだよ。ある可能性に気付いて実践してみたら、見事に予想が的中してね。いやー、でもこれは実際に見せてあげた方が早いかな」
相変わらず一方的に喋り続けているクマヨシさんがチラッと一瞬後ろを見ると、その背中の影から半透明のフニフニした緑色の何かが現れた。
自分の意思を持って動いている様にも見えるけど、一体あれは何だろう?
クマヨシさんの顔より一回り大きいくらいの何かが、ゴツゴツした手で撫でられ、嬉しそうに? 身体を揺らしている。
しかし、それにしても一体何だろうと見つめていると、その何かが近寄って来た。
プルプルと身体を揺らしながら近寄って来るコレは……まさか!
「おや? ツバサちゃん。スライムを見るのは初めてかい? 可愛いだろう。可愛がってあげてね」
「スライム? スライムって、あのスライム?」
「そう、あのモンスターのスライムだよ。ちなみに、ここまでツバサちゃんを運んでくれて、今もその小さなお尻を支えてくれているのも、オジサンのペットのスライムだからね」
え!? 僕、今スライムの上に座っているの!?
気になるけど、まだ麻痺状態で首を動かせず、確認出来ない。
だけど、一つ分かった事がある。
クマヨシさんは、ペットのスライムだと言った。
つまり、モンスターを使役するテイマーなんだ。
「あ、その表情は気付いたかな? そう、オジサンはレベル1からやり直す事になって、元々のファイターではなく、テイマーを選んだんだよ。狩りでは一番使えないテイマーは、オジサンの予想通り対人――特に、非戦闘エリアでの対人戦は一番使えるんだよ。街中でプレイヤーがプレイヤーに攻撃するとペナルティを受けるけど、ペットのモンスターによる攻撃は、ペナルティの対象にならないからね」
「じゃあ、僕が街の中で突然状態異常になったのは……」
「そう。オジサンや、オジサンの同士であるテイマー……それもテイマー系の三次職、スライムマスターによる状態異常付与だよ。スライムは弱いけど、状態異常スキルが豊富だからね」
そう言うと、クマヨシさんの目がニヤニヤとした笑みと共に細くなる。
そして先程とは違う、ピンク色のスライムが姿を現した。
「さて、ツバサちゃん。このスライムは見た事があるかな? メルトスライムっていうレアなスライムで、数あるスライムマスターの中でも、オジサンしかペットにしていないんだけど」
「見た事ないよ?」
「そっかー。じゃあ、教えてあげるね。このスライムは、またの名を脱がしスライムって言って、人体にはダメージを与えないけど、防具は破壊するっていう絶妙な溶解液を吐く事が出来るスライムなんだよ」
「そうなんですねー」
「うん。じゃあ、ツバサちゃん。その白衣は、ぬぎぬぎしようねー」
「……え?」
「大丈夫。麻痺状態で動け無くても、このメルトスライムの溶解液で、簡単に脱げちゃうからね」
一体何を考えているのか、クマヨシさんがメルトスライムと共に、動けない僕に近づいて来た。
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