第48話 フルボッコ!

「いけっ! メルトスライムッ! 溶解液だっ!」


 クマヨシさんの言葉に反応し、ピンク色のスライムが変な液体を飛ばしてきた。

 首が動かせないから見えないけど、せっかくもらった服が溶けてしまっているのだろうか。


「むっ……ツバサちゃん。その防具は一体何なのかな? どうして溶解液で溶けないんだい?」

「え? そんなの僕も知らないけど」

「……くっ! よく見たら、その服は白衣か! 破壊耐性のある装備じゃないか!」


 どうやら謎の液体が僕の着ている白衣に付着したらしいけど、無事だったらしい。

 よく考えたら、白衣って科学者とかが着ている服だもんね。

 いろんな薬品を扱ったりするだろうし、クリエイターだって様々な薬を扱う訳だし、薬が付着しても溶けないっていう効果があってもおかしくはない。


「しかたない。ツバサちゃんの為にも、メインディッシュは後にしてあげようと思っていたんだけど……メルトスライムッ! スカートに溶解液だっ!」


 えっ!? クマヨシさん!?

 今更だけど、何を考えているの!?

 男の僕の履いているスカート(この時点でおかしいけど)を溶かしてどうする気なのっ!?

 正気に戻って!

 僕がそう言おうとした所で、


「ふふっ。白衣には耐性があったが、その紺色のスカートは、普通のスカートだったみたいだね。少しずつ、見えていくのも一興だよね」


 クマヨシさんが意味不明な事を言いながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 今の僕は、上着は白衣+30だけど、下はクリエイターのデフォルト装備である紺色スカートだ。

 どうせなら、デフォルト装備全てに薬品耐性というか、破壊耐性を付けておいてくれたら良かったのに。


「さて。メルトスライムには、このまま頑張ってもらうとして……ツバサちゃん。実は、もう一匹レアなスライムを見せてあげるよ」

「え……その、ウネウネ動いているのは、何?」

「えへへ……触手って分かるかな? 分からないよね。これはヒールスライムっていうんだけど、触手の先端から回復効果のある粘液を出すんだ。だから、ちょっと痛い事があっても、すぐに治っちゃうからね。ツバサちゃん」


 何!? 何なのっ!?

 痛い事って何!?

 そんなのヤダよっ!


「メルトスライムがツバサちゃんのパンツを溶かしたら、次はこのヒールスライムの触手で……」

「やだっ! 気持ち悪いっ!」

「そう……いいよ。その怯えた表情。いつも笑顔のツバサちゃんだったけど、そんな愛らしいツバサちゃんのそういう表情も見たかったんだ。大丈夫……オジサンが一緒だから、少しも怖くないからね」


 ペナルティがあるからか、クマヨシさんはニヤニヤと笑みを浮かべながら僕を見ているだけだけど、メルトスライムが溶解液を吐き続けて僕のスカートをじわじわと溶かす。

 そして、ヒールスライムの触手が何かを待つように、僕の太ももを行ったり来たりしている。

 もうやだ……僕、男なのに。

 この人、変態だよ……。


「ねぇ、もうやめて……」

「ツバサちゃんの泣き顔……これもイイッ!」

「うぅ……お願いだから、誰か助けてっ!」


 クマヨシ――変態を前に、なすすべも無い僕は、ただ叫ぶ事しか出来なかったんだけど、


『低年齢モード限定、お願いスキルを使用しました』


 突然、以前に目にした事のあるメッセージが表示された。


「ふふっ。ツバサちゃん。ここはオジサンがギルドマスターをしている『スライムブリーダーズ』のギルドハウスだからね。課金で購入した家だし、誰もここには入って来れな……」

「ん!? ここはどこだ!? 突然視界が真っ暗に……ってツバサちゃんっ!? 何その、半分破れてパンツが見えてるスカートに、太ももを撫でるエロ触手はっ!? 大丈夫!?」

「おい! こいつって、前にツバサちゃんに抱きついてペナルティを受けたオッサンじゃないのか!? どうして、FO内に居るんだっ!? というか、ツバサちゃんに何をしてくれてんだよっ!」


 どういう訳か、いつのまにか目の前にコージィさんやシュタインさん……ギルドの皆が居て、クマヨシさんが慌てふためく。


「お、お前らっ! どうしてここにっ!? どうやって入ったんだっ!? というか、何人居るんだっ!?」

「そんな事はどーだって良いんだよっ! てめぇっ! 俺たちのツバサちゃんに何て事をしてくれたんだっ! 絶対に許さねぇからなっ!」

「ふ、ふん……だが、実際どうする気だ? 私を攻撃すれば、お前たちだってペナルティを受け、最悪BANされるんだぞ。いいのか?」


 ギルドの皆にクマヨシさんが詰め寄られるものの、膠着状態で互いに何も出来ないなか、一先ずアオイが僕にまとわりつくスライムたちを追い払い、マントを羽織らせてくれた。

 その直後、部屋の温度が下がった気がして、


「キサマか……我の親友であるツバサを泣かせたのは」

「お、お前は誰だ!? どうして名前が黄色……って、まさか、この貧乳少女がネットで噂の魔王の……」

「キサマは絶対に許さんっ! 万死に値するっ!」


 どうやって来てくれたのかは分からないけれど、怒ったクリスが大量のモンスターを召喚し、クマヨシさんと、ついでに隣の部屋に居たスライムブリーダーズのギルドメンバーもろとも、ボッコボコにされたのだった。

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