第46話 拉致
「ありがとうございましたー!」
冒険者ギルドのお姉さんに教えてもらった薬屋さんへ行き、アイテムの初級調合レシピと、初心者調合材料セットを買ってみた。
クリエイターは、アイテムを作るだけで経験値が入ってレベルが上がるって聞いたし、戦わなくても良いから僕に向いているクラスな気がする。
「えっと、この辺りかな。ベンチでもあれば完璧なんだけど」
薬屋の店員さんに、アイテム作りは落ち着いた静かな場所の方が良いと教えてもらったので、人気の無い方へ歩いてきた。
寂れた路地裏だけど、街の中なのでモンスターに襲われる事は無いし、他のプレイヤーも居ない場所なので、集中出来る。
凄く適した場所なんだけど、どこかに座れる場所はないかなー?
そんな事を考えながら歩いていると、コツンと足に何かがぶつかった。
何だろうと思って、足元を見てみると、半透明の良く分からない物体が纏わり付いていた。
「えっ!? 何これっ! 気持ち悪いっ!」
モンスターなのだろうか?
だけど、街の中ではモンスターが出現する事は無いはずなのに。
一先ず、武器をフラスコから短剣に変えようと、メニュー画面を開こうとした所で、
『状態異常:毒(弱)をレジストしました』
『状態異常:忘却(弱)をレジストしました』
『状態異常:混乱(弱)をレジストしました』
『状態異常:魅了(弱)をレジストしました』
『状態異常:睡眠(弱)をレジストしました』
『状態異常:石化(弱)をレジストしました』
『状態異常:暗闇(強)は効果を弱めたものの、レジスト出来ませんでした』
『状態異常:沈黙(強)は効果を弱めたものの、レジスト出来ませんでした』
『状態異常:麻痺(強)は効果を弱めたものの、レジスト出来ませんでした』
『暗闇(弱)・沈黙(弱)・麻痺(弱)状態です』
システムメッセージが一気に沢山表示された。
暗闇? 沈黙? 麻痺? 一体、どういう事!?
そう思った途端に、視界が真っ暗になる。
「――ッ!?」
もしかして、これが暗闇なのっ!?
真っ暗でメニュー画面すら見えなくて、この状態では装備の変更も出来ない。
何も見えない状態だけど、このままだとダメな気がするから、一旦ここから離れようとして……何故か足が動かない。
「……っ!」
麻痺だ……って言おうとしたけど、声すら出せなかった。
おそらく、さっき出ていた沈黙の効果だ。
状態異常がどれか一つだけだったならまだしも、複数の異常が重なって、手も足も出ない。
「――!!」
今度は僕の足に何かが触れている感じがする。
はっきり言って、怖い。
何も見えず、助けを呼ぶ事も出来ないで、逃げ出す事も無理だなんて。
僕はどうなっちゃうのっ!?
「この子がボスのターゲットか? ……まだ子供じゃないか」
「うん。まぁボスの好みは、どうでも良いよ。そんな事より、事前に調べた時は三次職のソードダンサーだったんだけどなー。どうして、見た事も無いクラスになっているんだろー?」
「そういえば、そうだな。こんなアイコン見た事ないぞ?」
「うーん、わかんないけど、別に良いんじゃない? キャラクター名は正しいし、容姿も合ってる。クラス以外は事前情報と一致しているから、何かしらの理由でクラスリセットを使ったんじゃないのかなー?」
「ふむ。まぁいい。俺たちはターゲットをボスに届けるだけだ……って、よく見たら石化してないな。石化耐性の防具でも装備していたのか?」
「そうかもね。でも、麻痺状態になっているから大丈夫でしょ。念のため、複数の状態異常を付与出来るようにしておいて正解だったねー。それより早く行こー」
どこかで聞いた事のある声と、全く聞いた事の無い声。
全く姿は見えないけれど、すぐ傍で二人の会話が聞こえた後、僕の身体が倒れたような気もするんだけど、何も見えないから自分がどこを向いているかも分からないし、どうなっているかも分からない。
ただ、何か柔らかい物に乗せられて、どこかへ運ばれているような気がする。
一体、何がどうなっているの!?
ジタバタと抵抗する事すら出来ないまま、不安な時が過ぎた後、再び誰かの声が聞こえてきた。
「ボス。ターゲットの子を連れて来たよー」
「おぉぉ……流石だ。よくやってくれた。間違いなく、愛しのツバサちゃんだ」
「では、俺たちはいつも通り隣の部屋に居る。終わったら呼んでくれ」
そう言って、二人が離れて行く気配がしたんだけど、おそらくボスって呼ばれた人が僕の前に居るはずだ。
しかし……このボスって呼ばれている人の声は聞いた事がある。
誰だったかな?
何度か会話した記憶があるんだけどなー。
「ふむ。白衣姿のツバサちゃんも悪くないが……やはり巷で噂になっているスク水姿も見てみたいねぇ。だけど、こっちで用意した服も捨てがたい……よし、ツバサちゃんに選んでもらおう」
ボス? がそう言うと、顔に何かが触れ……視界が戻った。
「暗闇を治癒するアイテムを使ったから、もう見えるよね。久しぶり、ツバサちゃん」
「……!?」
まだ沈黙状態なので声が出なかったけど、僕の目の前には、以前ペナルティで姿を消す事になったはずのクマヨシさんが居た。
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