第2話 僕を可愛がる過保護な美少女JK
ざっと周囲を見渡してみても、せいぜい二階建ての家がやっとで、マンションやビルなどといった物は一つもない。
いかにもファンタジーと言った様子の町に一人で放りだされてしまった。
「チュ、チュートリアル……チュートリアルも終わっちゃったの? それとも、まだチュートリアルの途中なの?」
呟いてみても、神様の声とかで助言がある訳でもなく、すぐ傍には誰も居ない。
どうしよう。ゲーム開始から僅か一分足らずで迷子になってしまった。
「と、とりあえず、建物の前に居るって事は、ここに入れって事だよね?」
誰かが肯定してくれる訳でもなく、凄まじくリアルに感じられる風に晒されながら、「冒険者ギルド」と書かれた建物の扉に手を掛ける。
「んーっ! 重いー……っはぁ。やっと開いた」
ゲームの仕様なのか、現実よりも視点が少し低く感じるので、顔と同じくらいの位置にある扉の取っ手を引くが……動かない。
なので、両手でしっかり持って、全体重を掛けて引くと、何とか隙間が出来たので、そこへ身体を滑り込ませるようにして中へ。
冒険者ギルドと書かれているくらいだから、ある程度力が無い人はお断りって事なの? 見た目は何の変哲もない木の扉なのに、無駄に重すぎるよっ!
少し薄暗い室内に入って、はぁはぁと肩で息をして、呼吸が整ったので顔を上げると、
「……」
椅子に座って、暇そうにジュースを飲んで居る高校生くらいの少女と目が合った。
オレンジがかった金髪に、大きくて意志の強そうな蒼い瞳。小さな顔なのに、大きく服を盛り上げるふくよかな膨らみ。
現実の世界では、僕が絶対に関与する事なんて無さそうな、美少女という言葉がピッタリの女の子だ。
その女の子が目を丸くした所で、手からジュースの入った容器が零れ落ちる。
「あ、落ちちゃう……」
僕の言葉は少女の耳に全く届いていないようで、小さな音を立ててジュースが床に零れた。
その直後、その音で我に返った女の子が、
「うわぁぁぁっ! 可愛いっ! ねぇ、お名前は? あ、ツバサちゃんって言うんだ。まだゲーム始めたばっかりだよね? ね、何か困った事ない? 分からない事とかない? お姉ちゃんが何でも教えてあげちゃうっ!」
どういう訳か、僕に向かって猛然とダッシュしてきたかと思うと、抱きしめてきた。
大きくて、柔らかくて、温かい、ふにゅんふにゅんで、運動神経皆無な僕にも優しい二つの子供用のソフトバレーボールに顔が挟まれる。
適度な弾力があって、凄く気持ち良いんだけど、このままじゃ窒息しちゃうよっ!
ペチペチと必死で少女の身体を叩くと、ようやく解放された。
「あ、ごめんね。苦しかったね。大丈夫? 回復魔法要る?」
女の子がしゃがみ込み、僕に目線を合わせて話しかけてくる。
しかし、この女の子。顔は幼いのに、胸と身長がとても大きい。キャラメイクでは、髪型くらいなら多少変えられるけど、基本的にプレイヤーの現実の姿が反映されると説明書に書いてあった。
もの凄く嬉しいんだけど、こんな美少女がどうして僕なんかを抱きしめてきたのだろうか。
「あ、あの……」
「なぁに? あ、私はアオイって言うの。よろしくね」
「そう、それ! アオイさんは、どうして僕の名前が分かったの?」
「アオイさんだなんて……アオイでいいよ。もしくは、お姉ちゃんって呼んで。あ、アオイお姉ちゃんも捨て難いわね」
「あ……アオイはどうして僕の名前を知っているの?」
僕より背が高いというだけで、初対面で見ず知らずの女の子をお姉ちゃん呼ばわりは流石にどうかと思ったので、恥ずかしいけれど呼び捨てにさせてもらった。
そもそもアオイって名前も、ただのキャラクター名だしね。僕は自分の名前をキャラクター名にしちゃったけどさ。
「そっか。チュートリアルが少し難しかったのかな? ツバサちゃん。お姉ちゃんの頭の少し上を見てみて。名前が表示されているから」
言われた通りに視線を動かすと、アオイの頭上に『アオイ』と白い文字が浮かんでいて、その隣には初心者マークと十字架みたいなマークが一緒に浮かんで居る。
きっと僕の頭上にも、ツバサという文字が浮かんで居るのだろう。
「えっと、名前の隣にある初心者マークとか十字架みたいなマークは何?」
「一つ目は、ツバサちゃんの言った通りで、このゲームを始めたばかりの初心者プレイヤーだって事よ」
「へぇー。じゃあ、アオイもゲームを始めたばかりなの?」
「うーん。一応、発売日近くからプレイしているんだけど、お姉ちゃんは高校生で、勉強や部活も忙しいから、毎日ちょっとずつやっているの。ちなみに、このマークが付いている間は、デスペナルティが無い――敵にやられちゃっても、経験値が減らないのよ」
なるほど。高校生って事は僕より少し年上だから、お姉ちゃんと呼ぶ事もあながち間違っては……って、いや、やっぱりおかしいよ。
同じ教室の女子もだけど、少し背が低いからって僕の事を可愛い呼ばわりしたり、女の子の発想は良く分からないや。
「それから二つ目の十字架は、お姉ちゃんのクラス――アコライトを表しているの。神聖魔法っていう、神様の力を借りた魔法で回復したり、護ったりしてあげられるの」
「そうなんだ。こんなにリアルな状態で魔法が使えたら楽しそうだね」
「うん、魔法は凄いよー。傷だってすぐに治っちゃうし……あ、そうだっ! ツバサちゃん。お姉ちゃんと一緒に狩りへ行ってみよっか! お姉ちゃんが守ってあげるよっ!」
「えっと、僕レベル1だけど、いいの? しかも、たった今ゲームを始めたばかりだし、迷惑じゃない?」
「いいの、いいの。お姉ちゃん、ずっと暇だったし。そもそも悪いのは遅刻してくるバカ兄……じゃなくて、ツバサちゃんが可愛いから一緒に行きたいのっ! ね、行こっ!」
あー、アオイはお兄さんを待っていたのかな?
確かに、クラスの皆も集まって狩りを行っているって言っていたのが聞こえたし、きっとその方がやり易いのだろう。
そんな事を考えていると、
『アオイ レベル25からパーティへの参加要請が来ています。参加しますか?』
目の前に突然変な枠が現れた。
「ひゃぁっ! な、何これ!?」
「宙に浮く枠の事かな? それはシステムメッセージって言ってね、『はい』と『いいえ』のボタンがあるはずだから、『はい』の所に意識を運んでみて」
意識を運ぶと言われても良く分からないけど、何となく『はい』のボタン付近をじっと見つめていると、
『アオイのパーティに入りました』
というメッセージが表示された。
「うん。これで、お姉ちゃんからツバサちゃんの体力が見えるようになったから、危なくなったらすぐに回復してあげるからね」
「あ、ありがとう」
「あぁぁぁ……可愛いぃぃぃっ!」
ペコリと頭を下げてお礼を言っただけなのに、再びアオイに抱き締められてしまった。
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