第3話 限界突破装備

「あ、そうだ。ツバサちゃんは本当に最初の最初みたいだから、そこのギルドの受付の人に話しかけておこっか。初級の装備が貰えるよ」


 暫く大きな膨らみに顔を包み込まれた後、アオイに言われた通り受付の女性に……って、カウンターの位置が高過ぎない!?

 何か踏み台とかが欲しいんだけど、そんな物は無いよね。

 しかたなく、つま先立ちで何とかカウンターから顔だけ出し、お姉さんに話しかけてみた。


「あ、あの……すみません。初級の装備が貰えるって聞いたんですけど」

「こんにちは。初めまして。ツバサ様は冒険者ギルドのご利用は初めてですよね。では、これよりギルドの説明をさせていただきますね」


 どうしよう。

 アオイに勧められた通りに話しかけると、何やら冒険者ギルドの説明が始まってしまった。

 きっとこれって話が長いよね?

 アオイは最初に座っていた席から僕を見ているけれど、あまり待たせるのは良くないと思う。

 そんな事を思っていると……早くも足がプルプルしてきた。

 日頃の運動不足が、ゲームの中にも反映されるなんて。

 どこまでリアルなんだと変な所で感心していると、受付のお姉さんがカウンターから出てきて、僕の前で視線を合わせるようにしゃがんでくれた。

 足がプルプルしなくて済むのは良いんだけど、何だか子供扱いされているみたいなんだけど。

 とりあえず、少しでも早く話を終わらせる為、出てきたメッセージ全てに『はい』を答えていると、


「では、これでツバサ様は冒険者ギルドの一員となりました。レベルが10になると、一次職に就く事が出来ますので、先ずはレベル10を目指してください」


 一先ず、最初のイベントとでも言えば良いのか、冒険者ギルドへの登録手続きが完了した。

 これで、ようやく初級装備が貰えるのか。


「それでは、こちらは当ギルドからの支給品です。尚、低年齢プレイヤー補正により、限界突破装備を支給いたします」


 ん? 今、ギルドのお姉さんが変な事を言ったよね?

 低年齢プレイヤー補正? 限界突破装備?

 何の事だろうと思っていると、


『旅人の短剣+30をを受け取った』

『旅人の服+30をを受け取った』

『旅人の靴+30をを受け取った』


 一気に三つのメッセージが表示された。

 この「+30」っていう表示が限界突破なのだろうか。

 とはいえ、初級装備だって言っていたし、最初に貰える装備だし、「+30」というのが付いていても、大した事無いのだと思う。

 ……って、メッセージは表示されたものの、実際に短剣だとか、服や靴っていう物を貰っていないんだけど、どうすれば良いんだろうか。

 とりあえず、話が終わったみたいなのでアオイの所へ戻り、


「えっと、アイテムを受け取ったっていうメッセージが表示されたんだけど、実際に何も貰って無いんだけど……」

「それはね、自動でアイテムボックスに格納されているのよ。『ステータス』って言ってみて。慣れてきたら、口に出さなくても強く意識するだけで、ステータス画面が表示されるから」


 教えてもらった通りに「ステータス」と言うと、よくあるRPGのメニュー画面が視界に現れた。

 システムメッセージと同じ要領で意識をするとアイテムが選択されたので、更に装備というメニューを選んでみる。

 すると、一瞬で僕の服や靴が選んだアイテム――ゆったりとした半袖半ズボンの動き易い服と、スニーカーみたいな靴に変更された。


「凄いね。選ぶだけで着替えたり出来るのは便利だね」

「そうよねー。現実でも体育の後とか、部活の後に一瞬で着替えられたら良いのにねー」


 アオイと他愛のない話をしながら、僕がアドベンチャラー――冒険者という、誰もが必ず最初に就く基本職になったのだと教えてもらった。

 ちなみに、このアドベンチャラーはステータス補正も無いし、有効な特技なども無いので、さっさとレベル10まで上げて、一次職というのになった方が良いそうだ。


「そうだ、アオイ。限界突破装備って何なの?」

「え? 何それ? そんなの聞いた事がないよ?」

「んー。でも、さっき貰った装備に、+30っていう表示が付いているんだけど」

「あはは。それは+3の見間違いじゃないかな? 精錬っていって、装備を鍛えて強くする事が出来るんだけど、上限は+10までだし、+1する毎にお金と材料が必要で、しかも失敗して装備が壊れる事もあるんだよ! だから、だいたい+6とか+7まで精錬すれば、十分凄い装備なんだよー」


 アオイは笑いながら見間違いだっていうけど、流石に3と30は見間違えないってば。

 だけど、アオイが僕の内心に気付く訳も無く、


「じゃあ、行こっか。お姉ちゃんが、ツバサちゃんのレベルをガンガン上げちゃうからねー」


 手を握ってきた。

 おっぱいに顔を埋めたのも初めてだけど、女の子から手を繋がれたのも、初めてかもしれない。

 僕はアオイからお姫様みたいにエスコートされて、冒険者ギルドの建物を出た。

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