第4話 あっという間のレベルアップ
「ツバサちゃん、ここよ。ここはすっごく早くレベルが上がる狩り場だから、レベル10なんてあっという間よ」
アオイの――アコライトが使える、事前に設定した場所へ瞬間移動出来るワープ魔法で、どこかの山に連れて来てもらった。
アオイ曰く、オイシイ狩り場なんだけど、最初の街からそれなりに離れているので、初心者はあまり来ないそうだ。
で、ここに出現する、ジャイアントワームっていう、ちょっとした犬ぐらいの体長を持つ大きな芋虫が狙い目なのだとか。
「逆に言うと、ジャイアントワーム以外のモンスターは強いから、戦っちゃダメだからね。それ以外のモンスターはお姉ちゃんが倒しておくけど、もしも近くへ来たら逃げてね」
そう言うと、アオイが僕に支援魔法をかけ、ジャイアントワームの倒し方を説明して木々の中へと入って行った。
「えーっと、ジャイアントワームは、生命力と防御力が高くて普通には倒せないので、短剣でつついて崖から落とす……だっけ。動きは遅いらしいし、とりあえずやってみようか」
アオイと同じ方向、林の中を歩いて行ると……いた! 教えてもらった通り、モゾモゾとゆっくりした動きの大きな芋虫だ。
……ちょっと気持ち悪いけど、ゲームの中だって分かっているし、頑張ろう!
右手に短剣を持ち、芋虫の横から短剣でつついて動かす……って、あれ? 消えた!? なんで!? 犬くらいの大きさだから、簡単に転がせるって言ってたのに。
どうして芋虫が消えたのかと考えていると、
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル6です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
唐突にシステムメッセージが表示された。
え? あれ? さっき消えたのって、モンスターを倒しちゃったの!?
防御力が高いから崖から落とさないといけないって話だったのに。
あ、そっか。さっきアオイが僕に使ってくれた支援魔法のおかげか。神聖魔法って呼ぶんだっけ? 魔法って凄いなー。
でも、アオイの言う通り、レベル10はすぐかもしれない。一匹倒しただけで、一気にレベルが5も上がったからね。
だけど、年齢制限モードって何の事だろう? ギルドの受付のお姉さんも、低年齢プレイヤー補正って言っていたけど……って、またジャイアントワームがいた!
先程と同じ様に、芋虫の横へ移動して、短剣でつつくと、
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル9です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
またもや姿が消え、レベルが上がった。
しかも、また一気にレベルが3つも上がっている。あと一匹倒したら、早くもレベル10に到達しちゃうんじゃないだろうか。
そんな事を考えていると、後頭部に何かがコツンとぶつかった。
何だろうと思って振り返ると、
「えぇぇっ!? 大きなカブトムシ!? ……これって、アオイが逃げろって言っていたモンスターの事!?」
僕のすぐ目の前に、昆虫タイプのモンスターがいる。
逃げなきゃって思ったんだけど、モンスターが羽をはばたかせて突進してきたから、とっさに手にしていた短剣を盾の様にして防いだら……モンスターが消えてしまった。
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル10になりましたので、一次職が解放されます。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
どうやら僕が持つ短剣に突進して、勝手に倒れてくれたみたいだけど、どうしてこんな事になったんだろう?
「ツバサちゃん! すごーい! もうレベル10になったんだねー! おめでとー! それにしても、こんなに短い時間で沢山倒したんだね」
僕が疑問に思った直後、アオイが現れて氷解した。
おそらく、アオイが既にダメージを与えていて、モンスターの体力が残り僅かっていうギリギリの所で、僕に回してくれたんだ。
凄いなー。僕にはまだ、モンスターの体力とかが分からないから、そんな事は出来ないや……って、
「アオイ! モンスターが現れる場所で抱きしめられると、動けないよー!」
「あはは。そんな所で口を動かされたら、くすぐったいよー」
むぎゅーっと、柔らかい膨らみが僕の顔を包み込んで、離してくれない。
くすぐったいなら僕を解放してくれたら良いと思うのだけど、このままで良いかもと思ってしまう僕もいたりする。
だけど暫くすると、アオイが名残惜しそうに少し強めにギュッと僕を抱きしめて、離してくれた。
「あのさ、アオイ。どうして僕がレベル10になったって分かったの?」
「パーティを組んでいると、メンバーのレベルや体力が一覧で見れるんだよー」
言われてステータス画面を出してみると、あった。
アオイの名前とレベルが表示され、体力が……あれ? 半分くらいまで減っているけど、大丈夫?
そんな僕の心配を肯定するかのように、
「ツバサちゃん。レベル10になったから、これで一次職に転職するための転職クエストを受ける事が出来るんだ。丁度良いから、一旦町へ帰ろっか」
アオイがそう言って、慌てた様子でワープ魔法を使い、街へと戻る。
あ、もしかして、あのカブトムシみたいなのは弱いけど、他にもっと強いモンスターが居たのかもしれない。
一先ず安全な街へ戻り、街を案内してもらいながら、暫く一次職についてアオイに教えてもらう。
一次職だけでも九種類あり、その次の二次職は更に倍の十八種類。更に、三次職や四次職があるそうなので、最終的にどんなプレイをしたいかまで考えて、じっくり決めた方が良いそうだ。
そんな話をしながらアオイと歩いていると、小一時間程前とは違い、ほとんど人が居なかった街に随分と人が増えている事に気付いた。
しかも、可愛いアオイと一緒に居るからか、ジロジロと……主にオジサンたちがこっちを見てくる。
「見てみろよ。スゲー可愛い」
「うほっ! 持って帰りたい」
「マジかよ。幼女じゃん」
可愛いって言葉は分かるけれど、幼女は流石に言い過ぎではないだろうか。
アオイは童顔だけど、胸も身長も大きいし、どうみても女子高生……いや、オジサンたちからしたら、女子高生も幼女みたいなものなのかな?
「ねぇ、アオイ。何だか、さっきより人が増えて無い?」
「リアルの時間が六時を過ぎているからねー。学校とか会社が終わって、みんなログインしてきたんだよー」
「あ、そっか。……って、六時を過ぎているの!? ごめん、アオイ。僕もうゲームを終わらなきゃ!」
「そっかぁ。でも、仕方ないね。あんまりゲームをやり過ぎると、お父さんやお母さんに怒られちゃうよね」
そう言うと、またもやアオイが僕を抱きしめてきた。
「おぉぉっ! 凄ぇのが見れた!」
「ボクっ娘だと!? 俺も抱きつきたい」
「おまわりさんこっちです!」
町の通りのド真ん中で抱きしめられたから、益々視線を感じる。
僕は注目されるのは好きじゃないけれど、アオイは他人の視線に慣れているのかな? 周りを全く気にせず離してくれない。
「あ、アオイ。ごめん、僕もう本当に時間が……」
「そっか。じゃあ、また一緒に遊んでね。一次職の転職も手伝うからね」
「うん、ありがとう。じゃあ、またね」
「うん。バイバイ」
僕はメニュー画面を出すと、一番端にあるログアウトという文字に意識を向ける。
ログアウトの確認メッセージを応答して……僕の視界が見慣れた白い天井に変わった。
「す、凄かった……これは、皆ハマるよね」
ヘルメットを外して、ベッドから降りると大きくノビを一つ。
階段を下りてリビングへ向かうと、
「お兄ちゃん。お勉強終わった? 渚と遊んでっ!」
僕を見つけた渚が、猛ダッシュで突進してきた。
子供特有の温かい体温が僕の身体に密着して、その温もりが伝わってくる。
温かくて柔らかいけれど、平らな感触は少し物足りなくて……
「渚。これから大きくなろうな」
「お兄ちゃん、突然どうしたの?」
不思議そうに僕の顔を見上げる渚の頭を撫で、夕食の準備が出来るまでの間、暫くトランプに付き合う事にした。
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