第20話 ユニークモンスター
「うわ。流石はユニークモンスター……おっきい」
「ツバサちゃん? ユニークモンスターって?」
「え? パーティを組む時に言いませんでしたっけ? 僕はこれを倒しに来たって」
「え、えへっ。そ、そうだっけ?」
聞いて無かったの? というか、育代さんもプリーストの支援があった方が……って言ってなかったっけ?
とにかく、こいつを倒せば晴れて二次職のミンストレルになれるんだ。
改めて大きな蛙のユニークモンスター、ビッグトードを見てみると、周りに取り巻きみたいな蛙型のモンスター――フロッガーが十数体居る。
かなり数が多い上に、ビッグトードの大きさが問題だ。
ビッグトードの脚ならまだしも、身体が大き過ぎて、僕が持っている短剣では届かないよっ!
「ツ、ツバサちゃん! 蛙がいっぱい来たわよ!」
いつの間に距離を詰められていたのか。
取り巻きのフロッガーたちが、僕たちを囲むようにして間を詰めてくる。
「えいっ!」
迫りくるフロッガーたちに短剣を振るうと、フロッガーたちが順に姿を消して行く。
流石は育代さんの――プリーストの支援スキルだ。
十数匹居たフロッガーがあっという間に残り二匹に……って、また十数匹に増えたっ!?
そっか。ユニークモンスターは取り巻きのモンスターを召喚するってネットに書いてあったっけ。
という事は、フロッガーは幾ら倒しても切りが無いから、ビッグトードにダメージを与えないといけないんだ。
だけど、取り巻きのフロッガーは何十匹と現れるのに、ビッグトードがこっちに近寄って来ないのはどうしてだろうか。
「たぁーっ!」
フロッガーたちを薙ぎ払い、少し余裕が生まれた間にビッグトードに目をやると、さっき僕がずぶ濡れになった深みの先で止まり、そこからこっちに来る気配が無い。
「あ、そうか。身体が大き過ぎて通れないのか」
こちら側は成人男性より少し高いくらいの場所なのに対して、さっきの深い場所を境にして、向こう側は随分と広くなっているように見える。
ビッグトードを倒すのであれば、あの深い場所を通って向こう側へ行かないといけないって事なのか。
けど、流石にあの深い場所で戦う事は難しいので、向こうへ行こうとした所で確実にやられてしまう。
どうしようかと考えながらも、延々と湧き続けるフロッガーを倒していると、
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル55です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
レベルが上がってしまった。
今はレベルアップとかスキルとかって事を考えている場合じゃないのに。
……って、待てよ。そうだ、スキルだ。
今も育代さんに支援してもらっていて忘れていたけれど、僕だってバードのスキルが使えるんだから、それを使えばっ!
フロッガーを倒しつつ、視界の端でスキルメニューを開くと、今は「勇気の歌」と「元気の歌」というスキルだけが取得可能となっている。
「勇気の歌」が自分を含めたパーティ全員の攻撃力を上げるスキルだというのは、ネットで知っているので、先ずはそれを最高レベルまで取得してみた。
『勇気の歌Lv5を修得しました。
新たに、会心の歌のスキルが解放されました』
会心の歌っていうのが新たに取得可能になったけど、確かこれって……クリティカル率を高くするスキルだよね?
……そうだっ! こういうのはどうだろう。
『会心の歌Lv5を修得しました。
新たに、魔力の歌のスキルが解放されました』
一先ず、会心の歌を最高レベルまで取得すると、
「育代さん。今から武器を変えるので、もう一度武器を強化する支援スキルを使って貰って良いですか?」
「えぇ、いいわよ。任せてっ!」
周囲に居たフロッガーを斬り捨て、武器を変える。
そして、それを見計らって、
『ウエポン・ブースト』
育代さんのスキルが使用されて、僕が手にした武器の攻撃力が上がる。
ここで更に、
『会心の歌』
僕がバードのスキルを使い、クリティカル率をアップ。
これで準備は整った。
――いっけぇっ!
歌スキルを使用しているから喋れないけれど、気合は十分で、手にしていた武器――トゲタニシのトゲを思いっきり投げつける。
拳大の石みたいなトゲ――というか、貝殻の破片が真っ直ぐビッグトードに飛んで行き、命中した。
トゲタニシのトゲはドロップアイテムで沢山拾ってあるので、次弾の準備をしていると、
「きゃーっ! ツバサちゃん、凄ーいっ!」
育代さんの声と共に、背後から抱きしめられた。
「え? 育代さん!? まだビッグトードが……」
「ん? それはさっきツバサちゃんが倒したでしょ? 一撃で倒しちゃうなんて、凄いんだねー!」
一撃!? ユニークモンスターが!? そんなハズは……
『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル58です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』
って、レベルが上がった!? しかも三つも!?
それに、育代さんが言った通り、ビッグトードの姿が消えている。
どうやら本当に倒してしまったようだ。
「ツバサちゃん。じゃあ、目的も達した事だし、一旦街まで戻るわね」
「あ、はい。お願いします」
アオイも使っていた、特定の場所へワープする魔法で川の街の入口へと一瞬で戻ってきた。
「ツバサちゃん。今日は楽しかったわ。ありがとね」
「いえ、こちらこそ助かりました」
「じゃあ、私はそろそろ晩御飯の準備があるから戻るわね。また遊んでねー」
「はい。ありがとうございました」
手を振りながらログアウトする育代さんを見送り、僕はそのまま冒険者ギルドへ。
「――ぶっ!? な、何だと!?」
「ま、マジで!? 誰だよっ! JSにあんなの着せた奴はっ! ……最高じゃないかっ!」
「うむ。あれは実にけしからん! もっとやれ!」
ギルドに居た男性プレイヤーたちがよく分からない事を言っているけれど、一先ず受付のお姉さんにクエストの報告をして、
『ミンストレルにクラスチェンジしました。
演奏スキルが解放されました。
クラス補正により、生命力、知力、器用さ、幸運値が上昇しました』
二次職ミンストレルになった所で、今日はログアウトする事にした。
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