第14話 クリス・フォン・ヴァルモーデン

「うわ……なんだか、凄くグロテスクなキノコが現れたんだけど。しかも動いてるし」


 ピョンピョンと、キノコとは思えない動きで紫キノコが近づいてくる。

 とりあえず短剣を構えると、


――ぼふっ


 キノコの頭から変な粉が飛んできた。

 いわゆる胞子? っていうやつかな?


『状態異常:毒(弱)をレジストしました』


 レジスト? レジストって、どういう意味だっけ? 抵抗する……だったかな?

 よく分かんないけど、手にした短剣で突いてみたら、フッと紫キノコの姿が消えた。


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル26です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


「え? ちょ、ちょっと待って。一気にレベルが16も上がったんだけど! あ、上がり過ぎじゃない!?」


 たしか、アオイがレベル25だったはずだけど、たった一体の敵を倒しただけで、抜いてしまった。

 これも低年齢プレイヤー補正のおかげなんだろうけど……でも、凄く美味しい狩り場だってネットに書かれていた、今から行こうとしている芋虫よりも、こっちの方が沢山レベルが上がっている気がするんだけど……まぁいっか。

 とりあえず、当初の芋虫の山を目指して森の中を歩き続け、出てくるモンスターを倒していると、


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル40になりましたので、二次職が解放されます。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 たった一日で一次職から二次職へ転職するためのレベルアップが終わってしまった。


「あ、あれ? こんなに早いの!? 芋虫の所へ到着する前にレベル上げが終わっちゃったんだけど」


 せっかく取得したバードのスキルを一度も使う事が無かったよ。

 まぁでも、バードのスキルって、元々パーティ向けのスキルだしね。

 とりあえずバードの二次職であるミンストレルになれる訳だし、早く街に戻って転職クエストを……


「って、あ、あれ? 僕、どっちから来たっけ? ま、街は? 街はどっち!?」


 辺りをぐるりと見渡してみると、周囲に紫色の木々しかなくて、こっちから来たような気もするし、あっちから来たような気もする。

 とりあえず、歩いて来たはずの獣道を引き返してみたけれど、


「えぇー。こんな所、絶対に通ってないよー!」


 全く見覚えの無い場所へ出てしまった。

 南へ行けば良いのだろうけど、そもそもどっちが南なんだろう。

 とりあえず、僅かだけど広く思える方の獣道を選んで歩いて行くと、オレンジ色の巨大なキノコを見つけた。

 僕の身長よりも遥かに大きなキノコだから、もしかしてボスか何かだろうかと思って、こそっと覗いていると、根元? に、人が通れるくらいの扉らしきものがある。

 よく見てみると、目だと思っていたのは丸い窓だし、どうやらキノコの形をした家みたいだ。


「……森の中って意味では雰囲気が合っているけど、ややこしいよっ!」


 紫色の森の中にある、少し開けた場所のファンシーな形の小屋へ近づき、扉をノックしてみる。


「すみません。道に迷ってしまったんですけど、誰か居ませんかー?」


 一先ず住んでいる人に街への行き方を聞こうとしたら、


『合言葉不正解。しかし、年齢制限モードのためロックを解除』


 よく分からないメッセージと共に、扉が勝手に開いた。

 これは、中に入れって意味だよね?

 そう解釈して家の中に入ると、中学一年生くらいだろうと思われる、髪の長い男の子が立って居た。

 一瞬、女の子かな? とも思ったけど、胸が全く膨らんでいないし、黒いズボンを履いているから、きっと男の子だろう。

 それと、頭の上に「クリス・フォン・ヴァルモーデン」という長い名前が表示されているから、ギルドのお姉さんみたいなNPCじゃなくて、僕と同じプレイヤーだという事が分かる。

 ただ、何故か名前の文字が白色じゃなくて黄色だけど……まぁそれはログアウトしてからネットで調べれば良いや。

 そんな事を考えていると、僕と同じくらいの背丈の男の子――クリスが目を覆う程に長い前髪をファサっとかきあげ、口を開く。


「はっはっは。まさか、ここへ辿り着く人間がこんなにも早く現れるとはな」


 おぉ……金色の前髪の下に黒の眼帯か。

 あー、なるほど。喋り方や、キャラクター名、それから格好と、これは中二病って奴だね?

 分かるよ、分かる。僕もそういうのに憧れた時期があったからね。

 しかもここはゲームの中だ。

 ミユさんみたいに、好きなキャラの格好をしたら、そういう喋り方とか振る舞いをしたくなるよね。

 ただ申し訳ない事に、クリスがしている金髪眼帯で黒一色の服装のキャラの、元ネタが僕には分からないけど。


「さぁ、人間どもよ! 魔王の血を継ぐ我と、互いの血をもって狂宴を開こうではないか!」


 えーっと、これはつまり、僕とクリスで戦おうって事か。

 なるほど。名前が黄色の人は、プレイヤーキラーだから注意って事かな?

 けど、プレイヤー同士で戦うPvPなんてやった事が無いし、それよりも先ずは街へ戻りたいんだよね。


「これより、我ら魔王の……」

「ねぇ、クリス。本当にごめん。その前に、街への戻り方だけ教えてくれないかな? 実は僕、道に迷っちゃったんだ」

「……む。街へ帰りたいのか? し、仕方が無い。ならば、我が送ってやろう」


『レイド……』


 一瞬、何かシステムメッセージが表示された気がしたんだけど、クリスが何かのスキルを発動させ、一瞬で先程の深淵の街へと戻ってきた。

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