第42話 伝説のスク水

 三次職への転職を終え、一旦僕たちの仮拠点となっている旅人の街の冒険者ギルドへと戻ってきた。


「おぉーっ! いや、ツバサちゃんが三次職でソードダンサーかぁ。これは、これは眼福だな!」

「うむ。本当に素晴らしいよ。ちなみに、俺たちは踊りも見せてもらったんだが、激しい踊りだから、その……まぁ素晴らしいんだ」

「なっ!? この服で踊りだとっ!? 既におなかや太ももが丸見えなのに!? しかも、この格好で激しい踊りって……ズルいっ! 俺たちも見たいっ!」


 ギルドに居たオジサンたちが何かに羨ましがっているけれど、服って何の事だろう。

 皆の視線が僕に向いている気がするけれど、僕はいつも通りの服だし……


「って、あれっ!? こ、この服は何っ!?」

「あ……そ、それはね、ソードダンサーのデフォルトの服で……」

「えぇぇっ!? じゃあ、僕はこんな格好で踊っていたのっ!?」


 いつからこの服装になっていたのか、改めて自分の格好を見てみると、チューブトップって言うのかな? 胸に巻かれた帯みたいなのと、フンドシみたいな布……だけ。

 今の僕が身に着けているものは、それしか無かった。

 こんなので街を歩いていたなんて、もう変態どころの話じゃないよっ! 露出狂だよ、露出狂!

 慌ててアイテム欄を表示して、何でも良いから装備を変えると、


「ぉぉぉっ! これが、これが伝説のスク水ぅぅぅっ!」

「ツバサちゃーんっ! ありがとぉぉぉっ!」

「ツバサ! ツバサ! ツバサーッ!」


 先程よりも、オジサンたちの勢いが増してしまった。

 一体どうしたのかと思って確認してみると、先程のフンドシ姿ではないけれど、代わりにスクール水着姿になっていた。

 あぁぁぁ、間違えたぁぁぁっ!

 声にならない悲鳴を上げ、今度こそ普通の――旅人の服を装備する。


「ありがとうっ! ツバサちゃん、本当にありがとうっ!」

「ツバサ様っ! 噂には聞いていたけれど、まさかこの目でその姿を見られるとは思ってなかったよ!」

「これは……なるほど。なるほどねー」


 何故か冒険者ギルドがオジサンたちの異様な熱気に包まれる中で、一人うんうんと頷く黒ずくめの人が居た。

 黒い帽子に、黒いマスク。黒く塗った鎧に、黒いズボン……って、目立たないようにしているのかもしれないけれど、逆に目立つよ!?


「この子が噂のツバサちゃんか」

「……あの、僕に何か用ですか?」


 つい先程までは、顔から火が出るんじゃないかってくらいに恥ずかしかったのに、余りにも変な格好の人が僕の事を噂の……なんて言うから、恥ずかしさを忘れて冷静になる事が出来た。

 一先ず、変な人の返事をじっと待っていると、


「いや、ホント。何でもないんで。ではっ!」


 って、言って足早にギルドから出て行こうとする。

 うーん、何だろう。

 結構変な人だけど、「変」って言うと、男のくせに女の子用のスクール水着姿だった僕の方が圧倒的に変なんだけどさ。

 だから、こういう人も居るのかなって思って、そのまま見送っていると、


「おい、ちょっと待て。そこの黒ずくめの奴。お前は一体誰だ!?」

「え? ですから、何でも無いんですってば。ちょっとターゲ……っと、じゃなくて噂のツバサちゃんを見に来ただけですってば」

「こいつ、怪しくないか!? ……もしかして、こいつってアレじゃね? あの、女性プレイヤーを引退に追い込んでいるっていう……あ! 逃げたっ! 皆、アイツを捕まえろっ!」


 誰かが問いただし、そして黒ずくめの人がダッシュで逃げて行った。

 それを追いかけ、二十人くらい居たオジサンが一斉に走り出す。


「奴を絶対に捕まえろっ! ツバサちゃんを危険に晒すなっ!」

「何があっても捕まえて、口を割らせろ! どうやったらペロペロ出来るんだっ!」

「ペロペロ……ふへへ、待っててねー!」


 ペロペロ……って何だろう。

 凄い勢いで追いかけて行った人たちの中で、何故か数人が僕をチラッと見てから走って行った。

 まぁいっか。

 それよりも、少し遅くなっちゃったけど、クリスの所へ行こうっと。

 一人切りになったので、いつものように冒険者ギルドの転生サービスを使って深淵の街へ。


「クリスーっ! 来たよーっ!」

「おぉ、ツバサ! 今日は来ないかと思いましたわよ。さぁ一緒に遊びましょう」


 女の子らしさの練習? で、相変わらずよく分からない喋り方になってしまっている、スカートを履いたクリスと一緒に、今日は北の森へ行く事になった。

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