第18話 癒し系お姉さん

「あの、大丈夫ですか?」


 一先ず声のする方へ向かうと、背の高い銀髪のお姉さんがトゲタニシに向かって長い棒を振り下ろしていた。


「えっ!? ……ひゃぁーっ! 可愛いっ! ねぇねぇ。あなた、何年生? どこから来たの? 好きな食べ物は?」

「あ、あの。モンスターと戦闘中じゃないんですか?」

「あ! そ、そうだったわ。えーっと……ツバサちゃん。私があなたを強化するから、ちょっと倒してくれないかしら」

「それは構わないですけど、僕そんなに攻撃力が高くないですよ?」

「大丈夫、大丈夫。そこは、私のスキルでツバサちゃんを強くするから」


 そう言って、お姉さんが一歩下がると、


『ウエポン・ブースト』


 聴き慣れない言葉と共に、長い棒――木の杖を僕に向けて、何かの魔法を使用する。

 魔法の名前からして、武器を強くしてくれたのだろう。

 そうは言っても、元が最初に貰った短剣のままなんだけど、一先ず攻撃すると、


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル49です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 一回の攻撃でトゲタニシの貝殻が割れてしまった。


「え? 何これ? 一撃?」

「あらあらー! ツバサちゃん、レベルアップおめでとーっ!」


 僕の疑問を完全に無視して、お姉さんが抱きしめてくる。

 ほわほわと柔らかくて温かい胸に包まれ……何気に、このお姉さんの方がアオイやミユさんよりも胸が大きいかもしれない。

 それでいて、優しく抱きしめてくれるから、苦しくもなくて、このままずっと心地良い温もりに包まれていたくなってしまう。


「ツバサちゃんは二年生くらいかしらー?」

「いえ、三年生です」

「そう。好きな食べ物は何かしら?」

「エビフライです」

「そっか。じゃあ、今度作ってあげるから、是非食べにきてねー」

「はい……って、えっ!?」


 ……僕は一体何をしていたんだっけ?

 この柔らかさに顔を埋めていると、何も考えられなくなって、ただただ聞かれた事に応えてしまっていた。

 巨乳、恐るべし。

 何とか巨乳が持つ巨大な力に抗いながら、ゆっくりとお姉さんの胸から顔を離すと、僕が抱いていた疑問を投げかける。


「あの、お姉さん。さっきのスキルって……アコライトの魔法ですか?」

「ウエポン・ブーストの事ー? あれは、誰か一人の武器を強くするプリーストのスキルなんだってー」

「なるほど……って、お姉さんはプリーストだったんですね」

「うん、そーよー」

「……だったら、お姉さんが自分にそのスキルを使って、自分で倒せば早かったんじゃないですか?」

「自分自身にはもちろんかけてたわよー。だけど、私の武器は魔法の杖だから、打撃ではダメージが全然与えられなくてねー」


 なるほど。いくら武器を強化した所で元の攻撃力が弱ければ……って、僕の武器も最初に貰う短剣だけどね。

 それでも、杖よりかは短剣の方が強いのかな。


「そういえば、お姉さんはプリーストなのに、どうして一人でこんな所に居るんですか?」


 今となっては、バードなのにソロでダンジョンに来ている僕が言うのも変な話だけどさ。


「私ね、あんまりゲームとか得意じゃなくて、いつも周りの人が助けてくれるの。それなのに、気付いたら二次クラスにまでなってたから、そろそろ一人で戦ってみようかなって思って。それで、周りの人にお勧めされたこのダンジョンに来たのよ」

「あ、それ分かります。僕も、いつも周りの皆に助けられてばかりだったから」

「そうなんだー。ね、そうだ。私と一緒にパーティ組もうよー。ね、そうしよー。ね?」


 このお姉さんの、そろそろ一人で戦ってみようという考えはどこに消えてしまったのだろう。

 だけど、僕はこの後ユニークモンスターを倒すつもりだから、そこだけは確認しておかないと。


「あの、僕はこの奥に居るユニークモンスターを倒しに来たんですが、それでも良いですか?」

「もちろん! むしろ戦うなら、プリーストの私が一緒の方が絶対に良いと思うよー!」

「まぁ、それはそうですけど……」

「じゃあ、決まりっ! 私は、育代って言うの。よろしくね」


『育代 レベル61からパーティへの参加要請が来ています。参加しますか?』


 僕が返事をする前に、お姉さん――育代さんからパーティの参加申請が飛んできた。

 それと共に、育代さんの胸も迫ってくる。


「ツバサちゃん、一緒に行こうよー」


『育代のパーティに入りました』


「えっと、よろしくお願いします」

「こちらこそっ! よろしくねー」


 おっぱいの――もとい、育代さんの押しに抗えず、僕は即座に参加を選んでしまった。

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