第17話 川の洞窟

「お待たせー。クリス、今ギルドのお姉さんに言われたんだけど、今から行くダンジョンは服が濡れちゃうみたいなんだ。だから、別の服を……」

「いや、我は問題無い。このまま行こう」

「えっ!? 大丈夫なの!?」


 冒険者ギルドを出ると、すぐにクリスへ着替えを用意した方が良いと伝えたんだけど、問題ないと言われてしまった。

 でも、真っ黒の長ズボンで、足元だって黒の革のブーツだよ?

 そのままだと動き難そう……って、そうか。ゲームを始めて日が浅い僕と違って、クリスは既に着替えとかを持っているんだね。

 それなら確かに大丈夫か。


「よし、じゃあ行こっ! このまま西に行くと、洞窟があるんだってー」

「分かった」


 街を出て、そのまま西へ進むと、大きな川にぶつかった。

 そのまま上流に向かって川沿いを歩いて行くと、大きな岩山に開いた洞穴が現れる。


「ここが川の洞窟みたいだね。じゃあ、僕は装備を変えるけど、クリスは大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」


 クリスは今の格好のままで行くみたいだけど、僕はせっかくなので、もらった装備――レインブーツ(ピンク)を装備する。

 うーん。白いワンピースに、ピンクの長靴って、どこからどう見ても女の子の装備だけど……まぁ仕方が無いか。

 今、元の服を着ちゃうと、びしょ濡れになって、後でワンピースに着替えるハメになっちゃうしね。


「おまたせ」

「……ツバサは可愛いな」

「え……う、うーん。どうかな? あ、そうだ。ところでクリスのクラスって何なの? 前衛? それとも後衛?」


 思いがけない事を言われて困ってしまったのが半分。もう半分の理由は本当に聞きたかった事なので、クリスに戦い方を聞くと、


「我は……サモナーだ。前衛でもあり、後衛でもある」

「サモナー? 聞いた事がないけど、前衛でも後衛でもあるってどういう意味?」

「まぁ見ていろ。戦いになれば分かる」


 ネットに載っていないクラス名が返ってきた。

 それに、前衛でも後衛でもあるの意味が分からないよ。万能的な中衛って事なのかな?

 キラキラと水面が外の光を反射させていた洞窟の入口から奥へと進み、少しずつ薄暗くなっていく。

 幸い、所々に発光している苔みたいな物が生えているので、真っ暗ではないけれど。


「って、ここから水の中を通って行くんだね」


 モンスターと一度も遭遇する事無く、川の中へ。

 まだ足首までしか水が無いけれど、こんな所でモンスターと遭遇したらヤダな。

 そう思った瞬間、何かが足に当たった気がした。

 川の中を目を凝らして見てみると、長靴と同じくらいの大きさの巻貝がいる。


「えーっと、これって……モンスター! トゲタニシだっ!」


 良く見れば、その名の通り棘の付いた貝殻で、僕の足をずっと突いていた。

 だけど、冒険者ギルドで貰った長靴に水耐性があるからか、全く痛くない。

 これなら、長靴の高さよりも川が深い場所へ行かなければ、安全にモンスターが倒せるのではないだろうか。

 早速、手にした短剣でトゲタニシを攻撃しようとした所で、


「危ない、ツバサッ! サモン――オルトロスッ!」


 クリスが僕を抱きかかえ、何かのスキルを使用した。

 すると、水面に魔法陣のような物が描かれ、顔が二つある犬? みたいな生き物が現れる。

 そして、先程まで僕の足元に居たトゲタニシを前足で吹き飛ばし、


『おめでとうございます。レベルアップしました。レベル42です。尚、年齢制限モードのため、ステータスは自動割振されました。スキルの取得は手動となります』


 僕のレベルが上がってしまった。


「えーっと、クリスのクラスって、テイマーみたいな感じなの?」

「テイマー……あぁ、モンスターを使役する奴か。似ているが、少し違う。テイマーはモンスターの世話をする程、長く一緒に居るが我のは少し違う。一度召喚すると、一定時間したら消えてしまうからな」


 そう言って、クリスが少し寂しそうに顔を伏せる。

 もしかして、召喚? したモンスターと一緒に居たかったのかな?


「そっか。でも、僕はクリスと一緒に居るよっ! だって、友達だもん!」

「ツバサ……ありがと。じゃあ、さっさとユニークモンスターを倒して、クエストを終わらせよう!」


 クリスが僕をギューっと抱きしめ、少ししてから下に降ろされると、何かを踏んだので、何かなと思って拾ってみると、


『トゲタニシのトゲを手に入れた』


 いわゆるドロップアイテムだ。

 深淵の街の近くで、紫キノコから「キノコのカケラ」を沢山拾ったし、後で纏めてギルドに買い取ってもらおう。

 そんな事を考えながら、再びクリスと洞窟の中を進んで行く。

 ちなみにモンスターはクリスが召喚したオルトロスが、サクサク倒してくれて、僕は何もしていないのにレベルが48まで上がってしまった。

 そして、更に進むと、


「……えーいっ!」


 奥の方から、黄色い掛け声と共に、バシャバシャと水の音が響いてくる。


「もーっ! 硬過ぎるのよーっ!」


 声からして、女性みたいだ。もしかしたら苦戦しているのかもしれない。

 加勢してあげた方が良いかなと思ってクリスに目をやると……クリスの様子がおかしい。

 どういう訳か顔から血の気が引いて居て、


「ツバサ、すまない。訳あって、どうしても戻らなくちゃいけなくなってしまった。本当にゴメン」

「そっか、仕方が無いよ。昨日は僕だって先に戻っちゃったしね」

「ゴメン。また、遊んでくれる?」

「当たり前だよ!」

「……ありがとう」


 そう言うと、すぐさま姿を消してしまった。

 よし! 僕だって、もう二次職寸前なんだ。一人でも、困っている人を助けてあげるんだっ!

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